あきら

全身小説家のあきらのレビュー・感想・評価

全身小説家(1994年製作の映画)
4.8
小説家井上光晴のドキュメンタリー。
なんやかんやで3回くらい観たような気がします。

原監督といえば『ゆきゆきて神軍』なイメージがあるけど、2回目くらいでこの人ひょっとしなくても奥崎謙三よりもタチ悪いのかもと思ったかな。
奥崎氏も相当厄介な人だったけど、言ってることは都度本気だった。
けどこの井上光晴という人は巧みに虚構を混ぜてて、さすが小説家。
撮られていることを隅々まで自覚して踊って見せては「で?何を見たいんだ?」と問いかけてくる眼が冷笑的だったり、撮ってる方はけっこうストレス感じてたんじゃないかなと。

ありがちなガンとの闘病記みたいなお涙頂戴モノとは違う描き方はけっこう好きでした。

文学伝習所って言ってみれば小規模なカルトみたいなとこもあったけど、おばあちゃんが突然“おんな”の顔になる。その瞬間が鮮やかすぎた。「あの人は私の耳を綺麗だと言った」って…
耳って!なんて絶妙な!ほどよく当たり障りなく、ほどよく性的。これは見習いたい。

いわゆる人誑しってこういう感じなんだろうけど、彼女たちに幸せな夢を見せたことだけは確実で、表現者ってこうあるべきなのかもな…みたいなことを思った上で「全身小説家」のタイトルが見事すぎた。

たしかにMVPは寂聴さんだし、埴谷雄高があんなにかわいくて驚きましたよ。
あきら

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