脳内金魚

ヒトラーのための虐殺会議の脳内金魚のネタバレレビュー・内容・結末

ヒトラーのための虐殺会議(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

クレジットが無音なことで、本編中も一切のBGMがないことに気付いた。


ドイツが製作したナチス題材の映画だと、ここ数年だと『コリーニ事件』や『手紙は覚えている』、もう少し遡ると『かえってきたヒトラー』なんかがぱっと思い付く。こういうものを見ると、ナチス(ヒトラー)に関する負の遺産への向き合いがドイツは進んでいるなって思う。こう、同じ枢軸国側で敗戦国である日本での戦争映画って、ポツダム宣言受諾すべく奔走したんだとか、特攻隊の中でもみんなを守るべく孤軍扮装した軍人とか、どうもこうヒロイックに走りがちと言うか、自分たちの「光(正)」の部分に焦点を当てがちに思う。


例えば原爆投下を題材にしたとき、日本ではその凄惨さに焦点を当てがちだ。もちろん原爆投下に対してわたしは肯定的な意見はない。けど、アメリカ側からしたら、そもそも宣戦布告なしでパールハーバーを仕掛けた日本に、原爆投下を非難する資格はあるのかって意見もあると聞く。かなり前に、ある報道番組内で被爆者と原爆投下に関わったアメリカ人が対談すると言う企画を見た。原爆投下は誤りであり、謝罪が欲しいと言う被爆者に対し、米人側は絶対に謝罪はしない、「Remember,Pearl Harbor」だと反論していた。結局、この企画では終始両者が歩み寄ることはなく、結構陰鬱な気持ちで見終えたことを覚えている。この企画を立ち上げたとき、どの程度対談内容を事前に練っていたのかは分からない。単に対談するというアウトラインのみで、対談内容は当事者に任せるというものだったのかもしれない。もしかしたら、製作者(日本)としては、原爆資料館を見せ、被爆者の話を聞けば、謝罪が引き出せるかもしれないと言う安易な考えがあったのかもしれない。
ところが、蓋を開けてみれば原爆投下に対して肯定的な意見どころか、逆に日本の蛮行を責める言葉が出てきたわけだ。実はその前の原爆資料館見学のシーンから、その米人からはいわゆる悔恨的な言葉はなかった。原爆投下の正当性と戦争被害者は誰かと言う話は切り離して考えるべきか否か。わたし自身もどうあるべきか正直分かりかねている。実際、この企画が単純な「被爆者=100%被害者」としたかったのか、それは不明だ。ただ、根底には多くの日本人の中にある被害者意識が露呈した企画でもあったのかなと感じた。安易な既定路線を想定していたのかはともかく、原爆投下に対しやはり一定数肯定意見があり、それは当事者の中にもいると言う事実を包み隠さず放送したのはよかったなとは思った。日本人は知らない(忘れている)かも知れないが、多くのアメリカ人の中には「Remember,Pearl Harbor」と言う思いがあるとは聞いたことはあったが、本当にそうなのだなと分かった。


『ヒトラー~』は実際に存在する議事録を元に制作された映画である。そのため、当時の露骨な差別や生々しいやり取りがそのまま映画に描写されている。本当に日本では出来ない映画だなと思う。WWⅡに関しては、原爆投下と言う人類史上最悪の兵器が使われ終戦したと言う点から、どうしてもその前にある宣戦布告なしの真珠湾攻撃(宣戦布告に関するあれこれはともかく)による日米開戦や、アジア諸国への侵略、731部隊などなど、負の遺産をテーマにしたものはまだまだ出ないんだろうなと思う。実際どれほどドイツが自らの負の遺産に向き合っているのか、それが外からどう評価されているかは分からないけれどね。同時に、当事者同士が対話をし、解決策や落としどころを見つける難しさを噛みしめている。



YouTubeで該当動画を見つけたので。

【アーカイブ】原爆を開発、投下に同行、映像撮影したアグニュー博士と被爆者の対話の一部始終(2005年放送)
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