よつ

正欲のよつのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.7
人間の性的指向・嗜好の何を正常とし何を異常とするかは明確に規定できるものではなく、社会情勢や文化によって変わりうる。
たとえば同性愛は今でこそ受け入れられつつあるが、ほんの少し昔はその指向自体が罪だった。国によっては現在も。

多様性を重んじる現代社会においても、小児性愛に関しては、犯罪行為の有無にかかわらず異常者のレッテルを貼られる。将来的には「子供にも自己決定権はあるので、お互いに合意していればOK」なんてことになるかもしれない。個人的には受け入れがたいが、それも差別になる時代が来るのだろうか。

本作は、独特なフェチを共有する夏月(新垣結衣)と佳道(磯村勇斗)、男性恐怖症の八重子(東野絢香)、杓子定規的に普通を規定しようとする啓喜(稲垣吾郎)を中心に進行する。

多様性に無理解な人物として描かれていた啓喜の考え方が自分に一番近くて、若干凹む。
自分がどんな性質を持っていようが、社会で生きるうえで「普通」とされる姿を知り、擬態する能力は不可欠なのが実情だ。その点、啓喜はあの息子にとって必要悪とも言うべき存在だと思うのだが……。
息子を律することのできない母親との生活では、どんどん社会と隔絶されていく気がする。

夏月と佳道のフェチが性的興奮を伴うものなのかよくわからなかった。指向という言葉を使っていたけど、嗜好では?

全体的に暗く重い話が続くなか、夏月と佳道の共同生活の描写だけがオアシス。
考えてみれば、世間のカップルや夫婦も“異性愛”という指向を共有するグループであり、夏月・佳道たちと大差ないのだ。

「いなくならないよ、って」
よつ

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