マグルの血

正欲のマグルの血のレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
4.4
社会と迎合できない、受け入れられない。そんな所謂「普通」からはみ出した人たちの群像劇。

「多様性」という言葉が使われ始めた頃からずっと心に引っ掛かっていたモヤモヤを体現してくれた作品だと思います。
人類の歴史において、産み出された言葉やカテゴリーの数だけ、生きにくくなる人もまた増えているのではないだろうか。

真の意味で他人を理解することはほぼ不可能に近いと思います。
普通というのはあくまで大多数の人に当てはまるものであって、LGBTだったりフェティシズムだったりは残念ながら本人にとって普通のことなのに、大多数が当てはまらないという理由だけで拒まれてきた歴史があり、未だに受け入れられない人間はとんでもない数がいるのでしょう。

私も、きっと普通の人には理解できないような性格を隠し持っているのかもしれない。今のところそんな経験はないけど、まったく同じ人間はこの世に存在しないはずなので、少しのズレは他人にとっては悪なのかもと怖くなることがある。

多様性については「ミッドナイト·スワン」でも似たような感覚を覚えた気がします。あっちは性的マイノリティを深堀りしてたけど、ダイバーシティを屈折した捉え方をすることで、中途半端な姿勢で接されることにより苦しめられたシーンが見受けられました。

じゃあどうしたらいいの?って話なんですけど、はっきり言ってよくわかんないです。でも、この映画には少しヒントが隠されているかも。

本作は「人には到底理解することができない嗜好」を抱えた人々が、生きづらいと感じながらも誰かと繋がりたいという思いを捨てきれないでいる、そんな人々をフォーカスし描いています。

かなりえっぐい性癖です。恐らく共感してもらうのはほぼ無理でしょう。一定の理解は可能でも距離感が掴みにくい。全然人畜無害なんですけどね。

そういった嗜好を持ちながらそれを隠し、社会に溶け込む努力はするも満たされないでいる人々が描かれつつ、学校に馴染めない子が学校に行かないで社会性を身につけるため始めたYouTube、それを受け入れられない父親、男性を恐怖する自分をなんとか変えたい女子学生など、それこそ多様な人々がそれぞれの抱える問題と向き合いながら、あるひとつの事件をきっかけに交錯していくという流れ。

何か心が動かされたというより、こういったケースで生きにくさに悩む人もいることを認識できたことが本作を観て一番心に残ったことかも。
キャッチコピーの通り、観る前の自分には戻れないな。


邦画特有の間を意識した映像や少ない情報量もセリフなど、私が苦手な要素が多いにも関わらず、軸がしっかりしているので飽きずに観ることができました。
刺さらない人もたくさんいると思います。私は好きでした。オススメ。


あ、あとvaundyが担当するエンディングテーマ「呼吸のように」とても良かったです。
ラストカットからのエンドロール、この曲がもたらすカタルシスが素晴らしい。

最近はタイアップの曲も作品をしっかり意識して作ってる場合が多いから、楽曲単体で聴くよりもこういったタイアップしたメディアを経て聴くことで何倍もいい曲に聴こえることもあるのでしょう。

2024年 24本目
マグルの血

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