シュバルス

正欲のシュバルスのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.8
なんやかんや面白かったな
俳優陣の演技が光った。

八重子って役の女優さん、とんでもねー演技力だな。
実際に存在してるとしか思えない実在感。
気持ち悪いブスっ子なのにしっかり主張したり周りと合わせてたりどんなバランス感覚よ。
演技では頭ひとつ飛び抜けていたな。

この映画かなり分かりやすくて親切な作り。
普通代表の稲ゴロー寺井と特殊代表のガッキー夏月との対比を描いている。
その対比を描くことで現代の多様性のくくりへの疑問と警鐘を投げかけている。
まあここまでの理解は素人さんでも到達できるわな。

ここから先は有料級解釈

この映画の大きな構図は上記のままなんだけど、実は登場人物の様子が変化していることに気がつくだろうか。
成長と言っても良い。
言うまでもなくそれはガッキーと稲ゴロー扮する寺井と夏月だ。
なんでこの二人が主役なのを考えた人いるかな。
それは唯一この二人が、劇中に変化しているからなんだ。
夏月が序盤と後半で随分綺麗になってることに気が付いただろうか。
そりゃガッキーなんだから綺麗なの当たり前だろと思うかもしれないが序盤のデパートでのガッキーは意図的に醜く描かれているのよ。
後半、カニコロ二個買ってるんるんしてる時に街中で寺井との会話の時の夏月を見て欲しい。
そもそも同棲序盤は卵焼きひとつ折半する決まりの中なのに二個買う違和感だけど、
明らかに化粧が乗って美しくなっている。
これは愛する男とのなんやかんや一緒にいることで満たされている女の性なんだ。
旦那の佐々木は男だから結局同士だかなんだかで変態男三人募って友情ごっこやってるけど、この時もう夏月は参加してないよね。興味が薄れていて行く気がない。
口では行きたい言っててもな。
これには意味があるのよ。
そして悲しいセックスごっこ。
なんやかんや夏月が人間の制欲というものの興味、目覚めを表現している。
つか我慢効かなくなってる。
まさかあれを本当に言葉通り体験してみたいだけと受け取ったら駄目よ。
夏月から提案しているところも重要。
もっと言うと夏月の植木鉢ぶん投げは単なるジェラシー。かわええ。
つまり何が言いたいかと言うと、特殊性癖と言うものに対して、行き場のない佐々木と、逃げ場としている夏月の違い。
ここも全く一緒じゃないんよな。
悲しいかな、ここはしっかり男と女の差が出てしまっている。
男は欲に生き、女は社会性に生きる。
人類が太古から続いてきた性欲というものの悲しさよな。

そして稲ゴロー扮する寺井。
こいつもちゃっかり成長している。
最後夏月の質問に答えたり、伝言聞いたりしてるよね。
あれは序盤の寺井ではあり得ない公私混同。
愛するクソ家族からも拒否られた悲しみ。
つまり自分の立ち位置が揺らいできて世界の不思議さ、それまでの浅はかな決めつけに疑問を持ち始めている。

この二人の成長というのは人間の根源的な進化に近い。
この映画は表面的な対比の第一階層から、
LGBTの枠では測れない人々の苦しみの理解の第二階層。
そしてそこからの人間の持つ根源的な愛、滑稽なほど相手を求めてしまう性、時代という波に影響を受ける社会性、もしくは優しさみたいなものがじんわりと迫ってくる第三回層に分かれているいうこと。

ご馳走さんでした!
シュバルス

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