まーしー

正欲のまーしーのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.0
朝井リョウの原作既読。

登場人物は、ショッピングモールで働く女性(新垣結衣)、会社員の男性(磯村優斗)、ダンススクールに所属する男子大学生(佐藤貫太)など。
年齢も立場もバラバラな彼・彼女たちは、いずれも「水」に性的興奮を覚える。いわゆる「水フェチ」なのだろうが、フェティシズムという言葉だけで片付けられない。性的マイノリティの苦悩が描かれている。
水に性的嗜好を持つマイノリティな彼らと対比するように、検事(稲垣吾郎)が「常識」や「世間」を振りかざし、そのレールから外れたもの、例えば不登校の自分の息子を「社会のバグ」と評する立場として描かれている。

マイノリティな人たちに理解を示そうとする姿勢そのものが、実は差別をしているのではないか。
彼・彼女らは、そのような同情や共感を求めていないのではないか。
LGBTQへの理解が以前より進む現代社会において、そのような警鐘を鳴らしているようにも見受けられる。

タイトルの「正欲」は言い得て妙。
誰しもが、異性に対して性的欲求を抱くとは限らない。水に性的欲求を覚える人もいる。それこそが、その人にとっての「正しい欲求」、つまり「正欲」なのだろう。

日頃は明るい雰囲気のある新垣結衣が、本作ではシリアスな役に挑戦。生きにくさを体現している。
また、水フェチではないものの、異性に対して恐怖心を抱く女子学生・八重子を演じた東野絢香の存在感も光る。

全体的に重く暗い雰囲気が漂う本作。
「常識」とは。「一般的」とは。
その問いを、これまでとは違った角度から抉る作品だったように思う。