ベルベー

ウィッシュのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

ウィッシュ(2023年製作の映画)
2.2

このレビューはネタバレを含みます

本作の同時上映の「ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-」が、歴代ディズニーキャラクターが一堂に会するとても楽しい短編だったのだが、その中でミッキーが創業者の写真に対して脱帽するシーンがあり…とっても大事なシーンとして、あり。うわあ、2023年でもまだ創業者崇拝を押し付けてくるのか、10年前ならまだしも今やキツイなあ…とうっすら思ったり。

なので、続くこちら「ウィッシュ」の悪役が「誠実な初心を忘れて、人の願いを踏み躙るようになってしまった国の創始者」であるという皮肉が凄い。わざとやってるなら大した反骨精神である。わざとじゃなかったらもっと大したものだ。逆に。しかし、肝心の作品の出来がコレではそんな読みをする気もなくなってくるな…「ウィッシュ」の感想です!張り切っていこう!

嘘くせえ。予定調和な全てが嘘くさく、この混迷の時代には白けるばかり。しかし、100周年記念作品でこうなっちゃうのが、ディズニーの本質な気がしている。

嘘なのは悪いことではないと考えている。嘘を魅力的に見せるのも映画。しかし、露骨に嘘くさいのはダメダメ。願いは叶うんだ!願いのために!願いの力!ずっと言うてますけど、現実に於ける願いを叶えることの難しさや、叶えた時の感動が本作には全然反映されていない。終始軽んじられている気がした。タイトルに反してね。

現実を一旦無視しても、本作に於ける願いが抽象的すぎてあかん。願いを取られたらどうなるのか?それがどれだけの絶望なのか?描けているとはとても思えず。なんか風邪で体調悪〜いくらいにしか見えねえぞ。この程度の演出で願いの大切さを説けると思っていたのなら甘すぎる。

最近はディズニー叩く際にとりあえずポリコレディスっときゃいいと思ってる輩が多いですが、本作に関しては良くも悪くも「昔ながらの楽しい」ディズニーをやろうとしてるよね。その判断が裏目に出過ぎという話。なんせ古い。「白雪姫」も「シンデレラ」も「眠れる森の美女」も超名作アニメですが、2023年の映画ですと堂々と出されたら眉を顰める描写もある。時代が違うのだから当然だ。

そこを上手くブラッシュアップしようと苦心してきたのが2010年代のディズニーで、まあ「マレフィセント」なんて方向性思いっ切り間違えてることもあったし、20年代に入って流石に鼻につくことも増えてきたけど、でも上手くやったのも数多くあって、そこからしたら驚くほど現代性を気にしていない。良くも悪く…うん無理だ、悪い意味だよこれ。

余程分かりやすさに特化したかったのか、本作はルッキズムに傾倒しまくっている。主人公は美人だし、悪役は分かりやすく悪い顔をしてくれるし、ハンディ持ちは主人公のヨイショ役だし、マヌケ面は実際マヌケ。観てる間、私の中のたぬかながうるさかったもん。「ほらな、ポリコレ大事な天下のディズニーさんでもな、お前らホビの扱いなんてこんなもんや。世界中の観客がな、イラついとんねんお前らに。せやからおとなしゅうしとけホンマに」って。…え?ただの私の心の声?そんなバカな、嘘でしょ。

王様はアレだけど彼に尽くしてきた王妃は聖人だった!だから最後は下剋上!も一見ジェンダー平等だけど、「王に忠実な妻」が前提ってのが最早古くない?それだけなら70年代でも、60年代ですらある設定と展開でさ。まだその話聞かないといけない?って思いました正直。結末分かりきってるし。

あと、細部に神は宿ると言いますが、翻って細部が超雑だった「ウィッシュ」。願いの設定すらざっくりなのでさもありなん。会話の応酬のダサさに頭を抱えたし、「キャラが愉快そうな表情をしてるだけでセリフも展開も全然笑えない」というシチュエーションが頻繁に繰り返されて辟易。

「アナ雪」のクリス・バックとジェニファー・リーが加わってこれは辛いが、考えてみれば「アナ雪」もオリジナルとして考えると素直に面白いが「雪の女王」のアニメ化と考えるとキツいとこあったので、その悪い一面が表出してしまった気がする。

曲もなー。街中の至るところで聞かされた「This Wish」は流石にキラーチューンだと思うけど、その他の曲が全く思い出せない…。吹き替えで観たから、マグニフィコ王のソロ曲がめっちゃパシフィコ横浜冬の大感謝祭だった印象しかない。

マグニフィコ王の業績と器が全く見合ってない面白おじさんぶりは数少ない本作の美点ちゃ美点だけど、死の呪いかけてくる奴とか征服者とか子供を売り飛ばす奴とか犬の毛皮を剥ぐ奴とかクーデターの首謀者とか性欲拗らせてパリを火の海にする奴とかエッグいレイシストとか生々しい毒親とか魑魅魍魎のディズニー界隈で、なぜ「史上最も恐ろしいヴィラン」なんて売り文句にしたのかは全く理解できん。どこがやねん。
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