しの

ライオン・キング:ムファサのしののレビュー・感想・評価

2.9
新規ストーリーであるぶん前作よりマシと言いたいところだが、結局は後の設定に繋げなくてはならない制限があるので窮屈だ。「これ別にキングにならなくて良いよな」と思ってしまうのはどうなのか。いちいち現在軸に戻ってメタギャグをぶっ込むディズニーの悪癖も辛い。

王になるのに血統は関係ないんじゃ! というよくある話だが、そもそもムファサに王となる動機がなく、逆にタカは王にならねばという強迫観念に囚われている訳で、見ていて「キング」という概念が一番要らんなと素朴に思ってしまう。タイトルと真逆の内容を描くべきではと。

一見、「逸れ者でも逸れた先で自分の道を拓ける」という話をやってるようで、結局は王の器であったか否かが“兄弟”の明暗を分けたように描いているので、「ライオン・キング」という正解の道が実質自明に存在してしまっている。そこを疑ったりひっくり返すことはできないのだ。この歪さ。兄弟であるだけで十分だったはずが王政というシステムのせいで……という皮肉な話にするならともかく、それができないのだ。

そのため、ムファサが王の運命を邁進する(=タカが王の運命から外れる)契機となるのが、やたら凡庸な色恋沙汰になってしまう。誤魔化された感がある。この恋に落ちる過程も闇堕ちの過程もやたら性急で、ムファサが王の資質を見せていく流れもどさくさ紛れという感じなので、全体的に必要なイベントが何個かカットされている感じもある。

映像面もそうで、タイトルの出方をはじめ全体的にテンポが性急な感じがしてしまった。今回やたらカメラが動きまくるのだが、これも強迫観念的でいちいち落ち着かないし、平場でも見せ場でも同じようにグリグリ動くので却って平板に見えた。あと前作に引き続き、この絵面だと「命の環とか言うけどライオンはシマウマ食うよな……」はどうしても考えてしまう。

また、最後で離れた世代が呼応するのは画としては良いのだが、血筋なんて関係ない! という話のラストシーンとしては却って収まりが悪い気がする。やはり主題と設定がチグハグなので、結局は実写化やら続編やらの必要性のなさを感じてしまうディズニー作品群の一つになっている印象だった。
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