Jun潤

ライオン・キング:ムファサのJun潤のレビュー・感想・評価

3.8
2024.12.20

ディズニーアニメ(フルCG)実写化作品、の前日譚。
これまでアニメも含めてメインとなった作品の後日談やスピンオフは数多く製作されてきましたが、ここまでガッツリ、前作の主人公・シンバの父親・ムファサの幼少期から始まるストーリーをきちんと映像化するというのはなかなか珍しい気が。
まぁ元々の物語がシンバが成長していくストーリーなので、シンバ自身の前日譚を描くというのは無理な話で、そうなると自然と彼の父親・ムファサに焦点が当たるのは割と自然なのかも。
しかしムファサについても、兄弟のタカ、後のヴィランであるスカーについても既に結末が分かっている状態で、どのようなストーリーを観せてくるのかというのは気になるところ。
前作(原作?)が親子愛や子供の自立などを描いているので、予告編的に今作は兄弟の絆を描くことで差別化を図っているような印象。
『モアナと伝説の海2』にてストーリー展開が1とほぼほぼ変わらないということがあったばかりなので、今作もそのような流れにならないことを願って止みません。
今回も前作同様吹替版にて鑑賞。

サバンナにあるプライド・ランドの王・シンバの娘・キアラは、シンバと母・ナラが不在の嵐の夜、怯えながらマンドリルのラフィキから、かつて何者でもなかったライオンが偉大な王となるまでの話を聞く。
かつて、プライド・ランドよりも遥か遠く離れた、飢えと乾きばかりの地で、両親と共に暮らしていたライオンの子供・ムファサ。
久しぶりに雨が降り、川ではしゃぐムファサは、直後に起きた洪水によって両親と生き別れになってしまう。
流れ着いた先でムファサを助けたのは、群れの若き王子・タカとその母・エシェだった。
野良ライオンを嫌うタカの父・オバシの前で自らの足の速さを見せつけたムファサだったが、認められることはなく、エシェら雌ライオンたちと共に狩りをしながら、タカと共に義兄弟としてたくましく成長していく。
ある日の狩りの最中、ホワイトライオンのキロスが率いる群れに襲われ、ムファサとタカはかつてムファサの両親が教えてくれた豊かな地“ミレーレ(永遠)”を目指して旅をすることとなる。
しかしその旅路を、キロスらもまた後を追っていたー。

おそらく今作も前作同様、これは実写ととれるのか、フルCGならもうアニメなんじゃないか論争が巻き起こるのでしょうが、個人的には前作同様、実写版だったなという印象です。
本物のライオンを見る機会なんて動物園に行く時ぐらいでしょうが、あの姿は人間に飼い慣らされた姿で、本来の、自然の中で生きるライオンが、人間のように理性を持っていたらこんな姿や行動をしているんじゃないかと、想像を掻き立てさせられる時点で今作はもう実写版だと思います。
アニメでしか摂取できないもの、実写だからこそ摂取できるもの、それぞれをそれぞれから受け取れられるのは良いことだと思いますがね。

まず今作、映像についてですが、動物たちの、アップになった時の迫力や、雄大な自然を颯爽と駆け回る様々な姿と、前作よりもパワーアップしたのではと思える映像はもちろんですが、個人的には水の表現が印象に残りました。
ムファサが孤児となるきっかけになった洪水に始まり、その後もムファサの周りにある水を使って感情や雰囲気を描き、終盤には緊迫した場面なのにどこか神秘的というか、危機的状況でムファサのトラウマでもあるはずなのに、ムファサを優しく包み込んでいるような、映像的にも演出的にも、今までにない水の表現が観れました。

ムファサとタカの関係性についても、後の展開というか結末をそれぞれ知っているから、仲良さげにしている場面でちょいと涙腺が震えますね。
そうでなくてもオバシからのプレッシャーからなのか生来のものなのか、嫉妬深い感じやムファサのものを全て奪い取ってしまおうとする様が、どこか『ジョジョの奇妙な冒険』第一部の方のディオに似ているような気がしました。
境遇自体はジョナサン側なのに、中身はディオなのがちょっと面白かったですね。
しかし『ライオン・キング』の中でも印象的なスカーによるムファサの殺害シーンを彷彿とさせる場面が幼少期と成長後の両方にあり、それぞれの場面でタカがムファサに対して想っていることもおそらく違うんだろうなと思うと、今作はムファサの物語であると同時に、スカーの物語でもあったのかなと思います。

ストーリー的には個人的に残念な気もしていて、プライド・ランドの名称こそないものの、前作も今作も結局プライド・ランドに行くまでの冒険ストーリーになっていたことが気になりました。
モアナのようにコンテンツとして成熟していないわけではないので、もう少し力を入れてもよかったのにと思います。
それが『ライオン・キング』の良さでもありますが、ストーリーはアニメの時点で、映像は前作の時点で完成されていたのだから、単に登場人物を変えるだけでなく、もう少し差別化した部分があって欲しかったところ。
例えば冒険譚ではなくプライド・ランドの建国物語にしてみるとかの。

吹替版キャストについては松田元太意外とイケるやんて感じでしたね。
成長後でもタカがまだ持っていた純粋さや、徐々に曇っていき、その言動に様々な感情が込められていく様を表現豊かに演じていた印象です。
シンバ役の賀来賢人含め、キャスト続投で嬉しかったです。
原語版の方はキャストが一人亡くなっていたそうですが、追悼テロップが出ていたのもリスペクトを感じられるし、事情に詳しくなくても想いを馳せられた気になりますね。

予告にティモンとプンバァが出ていて、前日譚のはずなのになぜ?と思いましたが、なるほど話を聞かせる形であれば自然に出せるし、相変わらずのユーモアを添えてくれるのなら出さないわけにはいきませんね。
観ている側に語りかけるように第4の壁を突破してくるのはディズニーのお家芸みたいなものですが、「ハクナ・ムファサ」とか舞台の話とかの、メタフィクション系のコミカルシーンを入れ込んでくるあたり、やっぱり良いですね。
Jun潤

Jun潤