SANKOU

西部戦線異状なしのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

国のために戦うことは名誉なことであると焚き付けられ、現実を何も知らされないまま意気揚々と戦場へ送り込まれた兵士たち。
そしてこんなはずではなかったと後悔しながら命を落とす。
冒頭の兵士が代替え可能な消耗品であることを示すようなシーンが辛い。
戦場に横たわる無数の死体。身に付けているものを剥ぎ取られ、人間であることを忘れられたかのように雑に処分される。
そして彼らの軍服は補修され、また次の兵士へと受け継がれていく。
どこまで行っても終わらない泥沼の地獄。
兵士たちはもはや生き抜くことだけを目的に生きるようになる。
しかしほとんどの兵士がいずれ死を迎えることになる。
それが早いか遅いかで、そこには名誉も尊厳もありはしない。
ほとんどのシーンが何も知らない兵士の視点で描かれるが、この戦争の行方を決められる軍の上層部の人間の傲慢さに怒りを覚えるシーンも多い。
彼らは戦場で兵士が倒れているにも関わらず、贅沢な食事をし、己の尊厳のために戦争を長引かせている。
終わらない戦争に兵士たちの目からは次第に輝きが失くなっていく。
休戦協定が結ばれたにも関わらず、自分では手を汚さない軍の上官は、またしても名誉を振りかざしながら兵士たちに突撃を命じる。
とにかく最後まで虚しさを感じさせる作品だ。
戦っている相手も同じ血の通った人間だ。
ただ立場が違うだけで兵士同士に個人的な恨みがあるはずがない。
そしてやはりこの映画は何のために兵士たちは死ななければならなかったのかを考えさせられる。
無意味に思える死が多すぎる。
絶望の中にも一筋の光は見られるが、それでもこの映画に救いはまったくない。
どうしても1930年制作のアメリカ映画と比較してしまうが、より戦争の虚しさを感じさせるのはこちらの方か。
ただ主人公が蝶に手を伸ばそうとして敵兵に撃たれる1930年版のラストシーンもやはり忘れられない。
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