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フェイブルマンズのnanaのネタバレレビュー・内容・結末

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

幼少時に映画に出会い、そこから自らも映画作りを始めた彼の自伝的作品です。
とはいえ主人公の名前はサミー・フェイブルマンとなっており、多少の映画用脚色は加えられているはずです。
「スピルバーグってこんな少年期だったんだ…」と全て真に受けない方がいい気はしますが、おそらく事実に近いと思われるのは彼の家族関係のことです。

彼の作品には仲が上手くいっていない両親、父親の不在が頻繁に描かれます。
『フェイブルマンズ』で描かれるサミーの両親の関係は決して常に喧嘩をしているような険悪なものではないのですが、少しずつ糸が綻んでいくような切なさ、虚しさがあります。
両親を演じるポール・ダノとミシェル・ウィリアムズの演技は素晴らしく、また個人的に驚いたのは父の同僚であるベニーおじさんを演じたセス・ローゲンです。
途中まで彼だと分からなかったし、彼の演技によってベニーの愛嬌、人間らしさが出ていたと思います。もっと憎まれキャラになってもおかしくなかった。
サミー青年期を演じたガブリエル・ラベル、最後の方で髪が伸びたとき急に若き日のスピルバーグそっくりになっていました。

ある日、何気なく回していたカメラに母とベニーおじさんが親密にしている様子が映っているのを見つけるサミー。
ここの発見シーンは異様にスリルがあり、スピルバーグの自伝映画を観ていたはずが急にブライアン・デ・パルマの『ミッドナイト・クロス』やミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』が始まり驚きました。
一見、いわゆる「映画愛」を謳った作品のように見えますが、今作はカメラを通して撮るという行為の代償のようなものも描いてみせます。
それは終盤のプロムのシーンにも通じるものです。
映画は人を感動させ、希望も与えるが、同時に人を壊すこともある。

妹と親が喧嘩している深刻な場面すら、「今ここを自分だったらどう演出し、どう撮るか」と思わずサミーが考えてしまうところも今作のハイライトです。
作り手の性を描いたシーンに見えるし、同時にスピルバーグ自身がつらい時に「これは映画の中の出来事だ」と考えることで乗り切っていたと捉えることもできます。

スピルバーグが自伝映画を作ると聞いた時には、もしかしてもうキャリアの締めくくりに取り掛かってる…?いや年齢的には仕方ないかもしれないけれどちょっと待ってよ!と思いましたが、今作のユーモア溢れるラストカットはまるで「まだまだこれからも映画上手くなります!」と言っているように思えて勝手に嬉しくなりました。
人間とは、映画とは矛盾を抱えたやっかいなものであることを描いた上で、それでもやっぱり映画が好きだと思わせてくれる作品でした。
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