ビンさん

山女のビンさんのレビュー・感想・評価

山女(2022年製作の映画)
3.8
第七藝術劇場にて鑑賞。

監督の福永壮志氏は海外で映画を学び、日本の外から日本を眺める中で、日本人の本質を浮き彫りにするというアプローチを取っておられるようで、本作は8世紀の、おそらくは遠野地方を舞台とした物語になっている。
遠野物語にインスパイアされたという本作だが、確かに登場人物達が話す言葉は遠野地方かもしれないが、時と場合によっては日本の何処でも相通じる物語なのではないだろうか。

冷害が続く、とある地方の村が舞台。

凛(山田杏奈)は父伊兵衛(永瀬正敏)と弟と3人暮らし。祖父が犯したという罪により、村人から差別を受け、亡くなった村人の遺体処理を押し付けられている。

ある日、村内で金品の盗難事件が起こる。
村人たちは伊兵衛が犯人と決めつけ、家に押しかけてくるが、凛は自分がやったと申し出る。
実は凛は前夜、伊兵衛が何かを埋めているのを見ており、咄嗟に父を庇ったのだ。しかし、伊兵衛は凛を村人たちの前で激しく殴りつけるのだった。

村での生活に加えて、父からの仕打ちに、凛は家を出て山へと向かう。
そこで出会った山男(森山未來)との邂逅は、凛に生きる希望を与えるが、マタギ達によって山男は撃ち殺されてしまう。

挙げ句に続く冷害を食い止めるため、凛は神への生贄とされる。
その見返りに、伊兵衛は村の長老(品川徹)、顔役(でんでん)から、奪われていた土地を返してもらう約束を取り付けていた。

村の巫女(白川和子)が祝詞を挙げ、凛は村人たちが見守る中、生贄として火炙りにされることとなる・・・が。

とにかく、村社会におけるパワーバランスと同調圧力、女性の地位の問題等々、我々日本人(だけではないだろう)の悪しき伝統、しきたりを凛というヒロインを通じて目の前に叩きつけるように描かれる。
しきたりだけではなく、伊兵衛という毒親の下での、今で言う家庭内暴力についても描かれ、それらを一手に担うかのような凛というキャラクターは、あまりにも過酷ではあるが、さもありなんと思わせるリアリティがある。

その中で、束の間ではあるが生きることにポジティヴになれた山男とのシークエンスは、一服の清涼剤の如き。

凛を演じた山田杏奈は『ミスミソウ』(18)で、現代を生きる少女に降りかかる過酷な出来事を見事に演じきったが、今回も時代や舞台設定は違えど、相当に過酷な状況に置かれるヒロイン像を体現してみせた。

他にも山中崇、川瀬陽太、三浦透子といった、地味な映像の反面やたらと豪華な顔ぶれが見ものであり、凛に思いを寄せる泰蔵を演じた二ノ宮隆太郎の演技も印象的だった。

夢も希望も打ち砕かれた先に、凛が目にするものには諸々解釈が必要かと思うが、それらを引っくるめて力作に仕上がっていた。
少なくとも民俗学好きの僕には、たまらない一作だった。
ビンさん

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