観ながら父と二人きりで行った旅行を思い出していた。伊豆、熱海、パラオ、アラスカ、ニューヨーク、インド…
パラオでは昼寝していた私を置き去りに街まで行って夜まで戻って来なかった。伊豆では二人して離岸流に巻き込まれて死にかけて、自力で浜に上がった頃にはお互い血まみれだったのに、父が私にかけた最初の一言は「お母さんには言わないで」だった。インドでは高山病になって完全に伏せっている私を心配するどころか「夕日が綺麗だから屋上においでよ！」と言う。
それでも子供の私には父親は人間ではなくヒーローとして映っていたし、昨年鬱になるまで彼も一人の人間である事に気付かなかった。そうなってから「暗闇の中を何処までも落ちていく夢を繰り返し見る」って昔言っていたな、とか思い出す記憶が変わってきた。旅行中私よりはしゃいでいた父の裏側で何が起こっていたのだろう。何故私は一度も母が来ない事を不思議に思わなかったのだろう。
考えても仕方がないのだけど、家族の事すらこんなに分からないのであれば、私は人とこの先どんな関係を築いていけば良いのだろうか。赤子の泣く明け方の部屋で過去のビデオを観るソフィーも、そんな事を考えていたのかも。
