まさか

aftersun/アフターサンのまさかのネタバレレビュー・内容・結末

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

早くも今年のベストムービーに出会ってしまった。スコットランド出身の女性監督の長編初監督作。離れて暮らすイギリス人の父と娘が、トルコの静かなリゾート地で過ごした夏休みの記録。自伝的なのか否かわからないが、父娘のリアルで繊細な関係描写が忘れがたく、深い余韻を残す。

家庭用のムービーフィルムに残された31歳の父と11歳の自分の映像を見ながら、父が腕や背中に塗ってくれたアフターサン(日焼け手入れ用のクリーム)の感触と共にあの夏を振り返る現在のソフィ。

父と母は一度も結婚したことがないらしい。パートナーとして一緒に暮らしていたが、ソフィが7歳のころに別れたのだった。父は故郷のエジンバラを出て母とは別の人生を歩むようになった。以来、毎年夏休みのひとときを父とソフィは2人で過ごすようになる。

あの夏、ソフィは父が持参した家庭用のムービーカメラで父の姿を撮影した。プールサイドのデッキチェアに寝そべりながらソフィが口を開く。「遊んでいる時に空を見上げて太陽が見えたら、お父さんもこの太陽を見てるんだって思える。同じ場所にはいないけど、同じ太陽を見ていれば一緒にいるのと同じ」。父は何も言わない。

毎朝、太極拳のような奇妙なダンスをする父。笑いながらその姿をムービーカメラで撮影するソフィ。他の宿泊客も交えてプールでビーチボールを投げ合って遊んだり、ダイビングに出かけたり、若者たちとビリヤードを楽しんだり、古いポップソングを聴きながらプールサイドで夕食をしたり。そしてちょっとしたすれ違いに、互いに気まずくなる父娘。

高級とはいえないけれど、静かなリゾート地で過ごす父と娘のかけがえのない時間に、その切なさに、不覚にも胸が締めつけられる。夏の太陽の光はどこか寂しげで、共に過ごす時間はやがて終わりを迎える。再び離れ離れになることがわかっている。

ともに親密な時間を過ごしているからこそ、だろう。普段最愛の娘と暮らすことができない自分の境遇に、父はホテルの部屋でひとり嗚咽を漏らす。娘はホテルを去る前日に、もっとここにいようよ、と言いながらつけ加える。「でも一生ここにいるわけにはいかないね」

そしてムービーカメラを父に向けながら質問する。「11歳の誕生日に、将来自分は何をしてるって思ってた?」答えたくなさそうな表情でカメラの電源を落とした父に向かってソフィが言う「いいよ、私の心のカメラに残すから」

父娘のやりとりの一つひとつが愛おしさと哀しさに縁取られて、じわじわと心の奥底に染み込んでくる。別れて暮らす大切な人とのたまさかの時間を、これほどまでに詩的に表現した監督の手腕は、どれほど讃えても讃えきれない。新しい才能の出現を心から祝福したい。
まさか

まさか