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aftersun/アフターサンのYKのネタバレレビュー・内容・結末

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

20年前のビデオテープに残る、父と娘2人だけ旅の思い出・・・という、悪い予感しかしないあらすじ。絶対にどっちかが死ぬ!もしくはすべて妄想の記憶だったというオチ!と斜に構えながら観てしまったが、結果的にはそれ以上に重くのしかかる映画だった。作品の性質上、ビデオカメラで撮影したプライベートフィルム的な雰囲気と、他人の旅をのぞき見する紀行番組的な趣がある。それゆえ映画のレビューでは「説明がなくすべて観る人の想像に委ねられる」といった感想が多いが、個人的には、むしろシンプルでわかりやすい映画ではないかと思った。物語は現代からはじまり、先ほどの主観的映像と客観的映像、そして時折フラッシュバック的な映像が断片的に連なる。一見すると時間軸が分かりにくそうだが、2人が身に着けるアイテムが時間の推移を示す役割を果たしている。そこはある意味、すべてのモノが「説明的過ぎる」という批評の方が当てはまるくらい。終盤で流れる某名曲のシーン。これも本作いちばんの見せ場で感動的だったが、後になって考えると、曲(イメージから歌詞にいたるまで)にすべてを託しすぎでは?と思わなくもない。

当時、父親カラムは31歳、娘ソフィは11歳。20歳のときに娘ができたと思うと、カラムはだいぶ若い父親だ。他の旅行客に「兄妹?」と間違われるほど仲も良く、屈託ない関係に見える。ただそこには家庭の事情もあって、ソフィは普段母親と2人で暮らしており、今回の旅は、夏休み期間を利用した久しぶりの再会だった。旅行中に誕生日を迎える父に、ソフィは「子どものとき、どんな31歳になると思ってた?」と尋ねる。11歳と言えば、年上の人に興味が湧き、大人に対する憧れを抱く時期だ。一方でカラムは、30代、40代と年を重ねていくことに不安を感じていた。ソフィは「同じ太陽を見ていれば、離れていても近くに感じる」と明るく話すが、それはカラムにとって「こんなに近くにいるのに、心の距離はどんどん遠くなっていく」という逆説的な意味となって返ってきてしまう。父の苦しみ、大人になった自分のこと、ソフィは父と同じ立場になって初めて、彼の気持ちを理解することができた。辛さもあるが、その上でのラストが素晴らしい。ソフィの中の父親は、思い出の中へと帰っていく。

今回は父と娘の物語だったが、母と娘のことを描いた『秘密の森の、その向こう』はセットで観たい。こちらは、子ども時代の母に出会うことで、娘が母のことを知っていく物語。
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