ロングスリーパー

aftersun/アフターサンのロングスリーパーのネタバレレビュー・内容・結末

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

やっと見られた!
みんなが良い映画って言ってる意味が良く分かった。

観ている最中にわんわん泣くというより、鑑賞後思い返した時にじわじわ涙が出てくる作品。

Under Pressureを聴いてまた涙が出る。

よく考えられた美しい画作りと、カラムの絶望と、ソフィの思春期と子どものはざまの感じが全部調和した素晴らしい映画だった。

カラムに対してスティグマを投影していない所が(過度に感動させようとしたり、ヘイトを誘発しようとしたりがない)真摯だと思った。
食べたり話したり遊んだりが中心で、苦しみがところどころに見えるけど、分かりやすく強調はしていないのが良い。
但し、私が観たwowowの放送ではトリガーウォーニングがなかった。映画館でもなかったのかな?
「ネタバレ」になるとしても、こういった内容なら入れるべき。

具体的な病名を入れたりしてないのも、この場合有効に働いてる。
なぜならこれはソフィの子ども目線の記憶と、想像とが織り混ざった主観的な映像だから、そこに急に客観的な病名を入れないのは賢明な判断。
他者の痛みを完全に理解することはできないのに、病名を入れることで我々は「分かった気」になってしまう。
(でも分かってあげたい。)

カラムは誰にも自分の希死念慮を話していないように見える。大丈夫なフリをすればするほど、絶望が加速していったのかもしれない。

カラムが悩んでいるであろう、メンタルヘルス、親との関係、虐待の記憶、父親としての役割、お金のこと、孤独を、フィクションという物語の形で描くことの意義もよく分かる。
「客観的に冷静に解決すればいい」とかじゃなくて、主観的なこのじわじわ苦しい感じは、物語に没入することでしか味わえない。


【?】
・車に轢かれそうなのにずんずん歩いたり、ホテルの部屋のフェンスに乗ったり、夜の海に入っていったり、何度も自殺しようとしていた
・お金がないのに、元気がない様子でトルコ絨毯を買ったのは死のうと思っていて、最期に娘にあげたかったから(大人になったソフィが使ってる)
・怪我は自殺未遂で負った
・太極拳したり、本『瞑想の方法』(的な名前)を読んだりして心を落ち着かせようとしていた
・元妻に電話で「監視のため?」みたいなことを言っているのは、カラムのメンタルが不安定だから
・最後カラムが行ってしまった殺風景な建物内の扉は、病院とか死体安置所=彼の死
・その扉の奥のにぎやかな光が漏れているのはクラブ(ソフィの想像上)
・クラブでは最後にソフィが見たカラムの服装、年齢のまま(ソフィが持つイメージがそこで止まってる)
・クラブで1人で踊る父=辛い現実から逃避、孤独、若い
・クラブのシーンは、大人になったソフィの、自殺した父に対する感情の変化(怒り→決別→受容)
・最後にカラムとソフィが抱き合ってやっとlast dance、ソフィの心の中で苦しみ踊り続ける父(とソフィ自身の悲しみや、やるせなさ)を解放してあげられる
(バカンスで最後に2人で踊ったダンスにもつながる)


I love you very much. Never forget that.
葉書に書いてあったシンプルでよくある言葉が、なぜか忘れられない。