クラン

aftersun/アフターサンのクランのネタバレレビュー・内容・結末

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます




私個人の感想。
一気には書けないので感じたこと、思い出したことを書き足していきます。

父が自殺した時と同じ年齢になった娘ソフィが、父との最後のトルコ旅行で撮ったホームビデオを観ながら、父は何故自ら命を絶ったのか、最後の旅行での父の言動の裏側にある暗闇に思いを馳せる。

初見は11歳のソフィと同じ目線で映画を観ていたけれど、ラストの大人ソフィが、父の心の内を知ろうと何度も繰り返しビデオを観ているのと同じように2回3回4回と繰り返しこの映画を観ている。観客は大人ソフィだ。

『何故?どうして?あの時、本当は何を思っていたの?』

父親が子どもを乱暴に扱う様子を見て、自分を守る方法を教えたり、食事の時、他の客がたてるガチャガチャと大きな食器の音に反応する様子から、父の母親はうつ病を患っていて、ネグレクトや虐待を受けて育ったのだと感じる。

母親の病状がとても悪く、父親もカラムのことを思いやる余裕がなかったのだろう。
そんなカラムは、自分は大切にされていないと感じ、自己肯定感が低く自分自身を大切に思えない感情から自傷行為を繰り返し生きてきたのだと思う。

母親からうつ病になりやすい体質を受け継いだカラムは母親と同じうつ病を患いながらも、理解あるパートナーと出会いソフィという娘が誕生したが、不安定な心は改善せず一緒には暮らせなかった。

カラムは愛する娘の為、太極拳やマーガレット・テイトの詩集などを読むことでメンタルコントロールをし、暗闇へ向かおうとする心とそれに反発する心との鬩ぎ合いの中、ギリギリの状態で生きている。

父は不眠症で夜に眠ることができず、昼間は常に眠気に襲われている感じ。
娘と離れてひとりの時の父は、道路を確認もせずに渡ってバスにクラクションを鳴らされたり、濡れたタオルを顔に被せて窒息するようにしてみたり、5階バルコニーの手すりの上に立ってみたり、自傷行動を繰り返している。腕の骨折や肩の傷も自傷行動からのものだと思った。

ソフィが『ちょっと落ち込んでいる。すごく最高の日を過ごした後で家に帰ると疲れて落ちこんじゃう。骨が動いてくれない。クタクタで何もしたくなくなる。沈んでいくみたいな妙な感じ。』と言うのを聞いた父は、自分が自分の母親から受け継いだうつ病になりやすい体質が、自分の娘にも遺伝してしまったのかと絶望し、鏡に写る自分の顔に歯磨き粉の唾を吐いた。

自分と同じうつ病に苦しむかもしれないソフィを思い『なんでも話してくれていいんだよ』と優しく語りかける父。

大人になったソフィは、同性のパートナーと産まれて間もない赤ちゃんの3人でNYに暮らしているが、自分を置いて自殺した父を、そして父の生き甲斐になれなかった自分を許すことが出来ずに苦悩している。

大人ソフィは父が自殺した同じ年齢を迎える誕生日、眠れず夜中に起きて父のレイブシーンを想像している。
誕生日を祝うパートナーの言葉に嬉しそうに見えないソフィは、最後の旅行で父のバースデーをサプライズで歌って祝った時の父と同じように見える。

ラストのダンスシーンは思い出しただけでも嗚咽するくらいに泣いてしまう。
ソフィを見つめるとても優しいカラムの表情と差し込まれるレイブシーンの全てを諦めたようなカラムの表情の対比が悲しくて哀しくて。

「Under Pressure」の歌詞は、フレディ・マーキュリーのパートがソフィの気持ち、デヴィッド・ボウイのパートが父カラムの気持ちかなと思う。

赤色が持つ意味について色々と考える。カラムが自身の誕生日プレゼントに選んだ電話のおもちゃが赤色だったり、着ているTシャツが赤色だったり、赤を基調として織られたトルコ絨毯。
魔よけを意味するトルコ絨毯の目のモチーフをさすったり、寝ころがったり。
ソフィが他の旅行客とサプライズで誕生日を祝う歌を歌った後、部屋でひとり裸で号泣している父の後ろ姿に赤いTシャツ(バスタオル?)。
空港で別れるソフィが背負っている赤いリュック。
クラン

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