せ

aftersun/アフターサンのせのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0
「私が見えたら、
パパも太陽を見てると思える。

同じ場所にはいないけど
そばにいるのと同じ。」




離れて住む父と過ごした夏休みのひと時を思い出す娘。
太陽光が眩しいトルコでの楽しい日々を撮ったビデオには普段自分には見せることのなかった父のある一面が映し出されていた。


よくできているし、
本当に悲しくて辛い映画だった。


この映画を観ると決めたなら、一ミリも気を抜かず全てのシーンを本気で見てほしい。
よそ見も勿論、倍速なんてもってのほか!

あとこれは感受性が強く繊細でメンタルが弱ってる人は観てはいけないタイプの映画かなぁと思います。

セリフも少なく、決定的な何かが「バ〜ン‼️」と起きるわけではない。
でもね、これ全てのシーンに全てが詰まってるはずです。

(以下の内容はかなり憶測だらけなので間違ってるかも)

監督自身の経験をもとにつくられた、胸を抉られるような話で、台詞や人物の細やかな動き、様子から察する・読み解く、という覚悟がないと中々何もわからず終わる映画。


眩しい太陽光と反して暗鬱として全てが危うい主人公の父の内面がとてもとても繊細に語られています。

何度も死のうとするような危ない行動をしたり、瞑想や深呼吸にこだわっているあたりからおそらくこの父親はうつ病なのは間違いないのでは、と。

昔の分厚いテレビの横に置かれているDVDだか本だかの山。
タイトルを観るとやっぱり精神的に立ち直ろうともがいている痕跡です。


どうにか崩れそうになる体を支えていたのは間違いなく「愛しい娘の存在」で、少ないお金を使ってこの旅行やトルコ絨毯(現在の成長した娘は実際にベッド下に敷いている)も買い、娘を楽しませようとする姿勢には涙せずにはいられません。


と言っても全て話を整理した後に泣きました。
正直一発目は「たぶん旅行後鬱で自死した」のかな?ぐらいだったのですが、
見返してるうちに確信となり目頭が....。

あの世に行く・この世と娘に別れを告げることを表すような白い廊下のドアをあけ、去っていく父親のラストシーンは心に残りますね。

"日焼けの後に塗る薬"や"日焼け後"を意味するタイトルの【aftersun】。

今となればこの娘にとっちゃ「あの夏の記憶」は日焼け後の痛みのようなもので、ピリピリとした気持ちになるんだろう。

終盤、昔と現在のダンスシーンを混ぜたような演出ではボウイとクイーンの「Under Pressure」が使用されていて、コレ私も好きな曲なんですが、歌詞と合わせて二人の親子の絆とお別れを考えると無茶苦茶に悲しい歌になってしまいます。

字幕付きで歌詞もきちんとだすあたり、この映画で監督が伝えたいことを一部表現しているんでしょうかね。
"This is our last dance"が辛い!

色々と考えてしまうよ〜
あの怪我は未遂のあとなのかな、とか別れた妻に愛を伝えたのもそれが最後の電話だとどこかで決意していたからなのか、とかね。

うつ病だと仮定すると色々と納得いくシーンや台詞があります。

日光を求めてるからこそ(セロトニン分泌を促すため)離れたスコットランドへの思いや、発症の理由は人によって違うけど、やっぱり彼も過去に何か辛いことがあったんだろうなと思う。

「11歳の時、将来自分は何をしていると思ってた?」と娘にインタビューされた時に動画を止めるように言ったり、「生まれ育った土地を一度離れると居場所はなくなる」と故郷を表現しているあたり、、、

思い出すのが苦痛なほどの過去に相当の経験をしたり、心に深い傷が残るような出来事が起きてしまったのだろうか。
またはかなり悪い環境で育ってきた苦しみの蓄積か。


まぁ本当に憶測でしかないけど、当時撮影したビデオを31になった主人公が振り返り、あの時の自分には理解しようがない父の内面の葛藤やあれが最後の別れだったと気づくのは本人の気持ちを考えるといたたまれない。
そして過去の父親の気持ちになると、憂鬱とした気分になってしまう。
この映画、救いがございませんで。

爽やかなポスターに惹かれてしまっても、死を考えたり、死を見たばかりの人は絶対に見てはいけない映画だと思います。


父の内面と同時に、思春期に入りたての娘の様子も一緒に描かれていて彼女のセクシュアリティの目覚めや気づきもわかります。

父親が貸した本よりも大人の恋愛に関しての雑誌を読んだり、ロビーにある大人向けの本に気を取られているのが最初から印象に残ってました。

彼女はキスしてくる男性よりも素敵な特権を渡してくれた年上のお姉さんの容姿や行動に惹かれていて、現在の大人になった彼女のパートナーが女性であることがわかったときは納得しました。

二人の顔はうつしていないが、聞こえてくる娘が放った一言が今もやけに胸に残る。

「でも一生はいれないね」



☀️同監督の同じようなことをテーマにした短編映画があるようです。でもこれ以上ダメージは喰らいたくないのでまたいつか、ね。
せ