akihiko810

aftersun/アフターサンのakihiko810のレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0
「30歳の自分に驚くよ。40歳なんて想像できない」
アメリカ・イギリス映画

11歳の少女ソフィ(フランキー・コリオ)は離れて暮らす31歳の父親カラム(ポール・メスカル)とトルコのリゾートホテルで休暇を過ごす。楽しい時間の中で、父親の密かな苦しみにソフィは気付かなかったが、20年が経ち、当時のビデオテープを眺めながら、大人になった彼女は父親との時間を振り返る…。

これは…親子の仲良しバカンスに見せかけて、でもその裏に、父にはなにやら陰鬱な思いがあって…という作品。
そして重層的な心象表現になっているので、解釈をかなり観客にゆだねる作品であった。1回見ただけだと「ん…??なんだ…??」となるような作品である。

ネットにある作品解釈を見て、私の感想を載せたい
https://note.com/vintenihore/n/n71f5f5e87f9b

以下ネタバレあり

父には希死念慮があり、どうやらのちに自殺したらしいことが、明言こそされないが示唆される。
そしてその希死念慮の一因が、父のセクシャリティがクィアだから、という(ように読み取れる)ものがある。
大人になったソフィは、当時の父の苦しみを理解する…。

正直私は、この作品にはまず「なんだかよくわからないけど、不穏で、二人の関係になんか胸を打つ」ようなざわざわした感じになり、ラスト手前にレイヴで、クイーンとデヴィッド・ボウイの曲「Under Pressure」がかかり、父がストロボの光の中の踊る光景の場面で、「こんな意味深でエモーショナルな場面が出るなんて、もしやこの作品は傑作なのでは?」とやっと気づく、という感じであった。

大人になったソフィにとって、当時の父の内面(と自殺の真相)を探ることは、自身の「根源」を巡る旅である。
親の年齢を越えて「大人になった者」が過去を乗り越えていくという、たとえば夏目漱石作品「こころ」と同じような文学性と文学的強度をこの作品は持つと思う。(漱石作品を文学の最高峰だと考えている私にとっては、これは最大限の賛辞である。)

本作は、とにかく重層的で、不穏で不思議な映画であった。
物語の序中盤はそこまで好きというわけでもないが、終盤にエモーショナルな場面もあり、胸を打つ作品だった。
ストーリーの展開があるわけでもないので、「大傑作!」と観てすぐに太鼓判押すような作品ではないかもしれないが、いつまでも心に残るという意味では、まごうことなき傑作なのかもしれない
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