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葬送のカーネーションの映画狂人のレビュー・感想・評価

葬送のカーネーション(2022年製作の映画)
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全体的に台詞が少ないため映像から社会的背景や文化的背景を汲み取る必要があり、ある程度の予備知識や鑑賞後の深掘りは必須。
移民大国トルコが直面する難民問題や急激に悪化する経済状況、映画を通して社会を学ぶ。
祖国の地へ埋葬する為に遺体を運ぶという象徴的行為、日本では火葬が一般的なので理解し難いかも知れないがイスラム教に於ける死生観やスーフィズムについて少しでも調べると作品に対する解像度は飛躍的に高まる。
台詞で一から十まで説明する様な安直な映画が基本的に嫌いなのでこの寡黙さは心地良い、映画は映像の芸術。
苛烈な旅の先に広がる厳しくも美しいトルコの雄大な自然、引きの構図を多用することで忘れ難いショットを残す一方、少女がミルクを落とすシーンに於けるメタファーや象徴的に映し出される赤いカーネーションが持つ花言葉など映画的演出も光る。
この孫娘ハリメを演じたシャム・シェリット・ゼイダンは実際のシリア難民だそう、特殊メイクか本物かは不明だがさり気なく映る少女の右手がケロイド状に焼けただれており戦争に巻き込まれたであろうことが想像できる。
ラストシーンが冒頭のシーンに繋がる事によって生命の循環を表しており、宗教的思想を超越した命の尊厳と生と死の祝祭。
本作は監督が敬愛する小津へ捧げた諸行無常の挽歌であり、混迷を極める世界に対しての送る言葉でもある。
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