素潜り旬

ファイブ・デビルズの素潜り旬のレビュー・感想・評価

ファイブ・デビルズ(2021年製作の映画)
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『ツインピークス』に熱狂した身としては、まんまだったらどうしよう…あまりの不穏さと可笑しさに、ニヤけ通しだろうか、頬が疲れるな、楽しみだな、とワクワクしていたが、実際オープニングの『シャイニング』的な空撮(それは『ツインピークス』に連なる)でドガンとその気持ちは早くもピークに達した。それくらいだった。ちゃんと『ファイブ・デビルズ』であったゆえの安堵で満たされたままの鑑賞。オマージュにトチ狂ったジジイどもの影も感じない若き才能に喜びを隠せなかった。

もちろん、影響を感じさせる部分は大いにあり、監督自身もインタビューでスタンリー・キューブリックやデヴィッド・リンチはもちろん、ジョーダン・ピールの名までご丁寧に挙げている。ただそれを隠さないのは、そこまでのことってなワケで、観てもらいたい部分は別のところにあるということだ。オマージュどうのこうので騒がずに、この物語に注視してほしいのが本当のところだろうと思う。現に彼女は脚本家であり今年日本でも公開された『パリ13区』などの共同脚本でもある。

彼女が生み出した物語は、ありがちな設定といえばそうで、過去の作品(映画や文学)から組み合わせて作られたようにも見える。だけれど、それがオマージュで終わったり、フランケンシュタインのような怪物的なコラージュで破壊力抜群で批評的な眼差しでしか見られないかといえばそうではない。何度も言うがちゃんと『ファイブ・デビルズ』である。それは過去の作品の表層的な部分と神話的な部分両方を素材として捉え脱構築し、彼女自身の作家性、そして彼女自身の物語が示した道の上に建てられているからこそ、その説得力に他の作品の存在を忘れられるのだ。
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