ひろぱげ

エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版のひろぱげのレビュー・感想・評価

4.0
何度見ても(といっても2回目なんだけど)不思議な映画。
ラブコメトレンディドラマの「フリ」をした人生哲学集とでもいうべきか。

とにかく人物関係が複雑で、しかもセリフが多すぎて、特に前半は中国語&台湾語の会話と痴話喧嘩の応酬に字幕を追いかけるのに必死で、ちょっと気を抜くと置いてけぼりになりそう。しかし後半、それぞれのキャラクターが様々な組み合わせでやり取りをし、新たな境地に至るのを見せられ、グッと面白くなっていく。
(ちなみに、主要キャラが皆、前作「牯嶺街少年殺人事件」の脇役達だという。)

モーリーとチチの二人の場面が良いなあ。ポスターにもなっている夜のプールのシーン。二人は大学時代からの親友ってことなんだけど、ショートヘアのモーリーの容姿もあって、恋人同士にも見える。(そんな親密な二人もふとしたことで言い争いになって気が抜けない。)
もう一つ、この二人の終盤でのシーン。早朝のオフィスの窓辺での、逆光のシルエットが素晴らしい。これこそ映画だなあと感じ入る。(このシーンは二人のセリフも好き)

ラストのエレベーターは、まるで魔法みたいでニクイなあ。

原題の「獨立時代」というのにも、それからしょっちゅう出てくる政治的なセリフ(「一国二制度」とか「民主的」だとか)にも、90年代前半の台北の情勢と、監督エドワード・ヤンの複雑な台湾に対する感情とが反映しているように感じた。(上海出身で、幼い頃に台湾に渡ってきた外省人であり、青年期をアメリカで過ごした後に、また台湾に戻っている。)

エドワード・ヤンの監督作は長編、短編合わせてもたったの8本。特に後半の4本はいずれも傑作なんだけど、2000年の「ヤンヤン 夏の思い出」を最後に、監督は2007年にこの世を去ってしまった。
エドワード・ヤンが今生きていたらどんな作品を見せてくれてたのだろうか?そんな叶わない夢を、この4Kリストア版で少し埋められたかな。
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