垂直落下式サミング

マニトウの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

マニトウ(1978年製作の映画)
5.0
悪霊に取り憑かれた元カノを救うべく、インチキ占い師がインディアンの手を借りて除念の祈祷術を決行する。オカルト作品。
黒背景に呪術的タペストリー。オープニングの高揚感がヤバイ!ガチンコオカルト肯定派すぎて、ドキドキがとまらない。
ホラー作品の序盤の演出では、これから呪いやら悪魔やらに悩まされることになる登場人物の何気ない生活のなかに、不気味な不穏を混ぜこんでいくもの。本作は、平凡な日常のなかにひどく不穏をあおる事柄が並べられており、名医でも腫瘍の原因がわからなかったり、あからさまにタロット占いで「死」が出たりと、俗っぽいことをやっている。
特に、気に入ったのは路面電車のシーン。男女が坂道の傾斜を上っていく路面電車のなかで会話をしていて、男のほうが「愛してるよ。」と言い女性が照れ臭そうに微笑むと、ちょうどそこで路面電車が坂の頂上を越えて下り道になり、窓からみえる景色がガクンと斜めに傾く演出がすばらしい!窓からみえる町の風景と同じく、ストーリーもそこを基点として不幸に突き進んでいく。サンフランシスコのご当地ロケーションを利用した見事な演出であります。
胎児のような腫瘍に医者もお手上げってなわけで、呪術や祈祷術に詳しい民族学者の変なジジイを訪ねにいくところも大好き。この老教授を演じているのは、ロッキーのトレーナー役で一躍有名になったバージェス・メレディス。頑固なんだか飄々としてんだかわかんねえ胡散臭さで場をなごませる。
呪いに苦しむ女性を救うため、助っ人としてやって来るのは、今では数少ないインディアンの祈祷師。名をジョン・シンギング・ロック(岩と話すもの)アメリカ先住民族の世界観のなかに生きている彼は、いわゆる悪魔祓いモノで出てくるカトリックの神父とはひと味違ったヒーロー像を提示している。
本作のような価値観で、霊魂というものを扱っている作品が好き。霊能力者とされる人も、本人には特別大きな力はなくて、使役するものの強大さと、霊的世界への理解度によって異能バトルの勝負が決する。現世に甦ろうとする最強呪術師の使役する凶悪なマニトウに対抗すべく、病院の医療機器のマニトウをあつめて対抗するばかばかしさも抜群。かがくのちからってすげー!
悪霊との戦いを終えた男たちに友情が芽生え、ほんの少しだけお互いを認めあって別れていくラストシーンは、とてもハードボイルド。彼への報酬はタバコ一箱あればいい。
アスファルトジャングルにうずもれた白人文化圏から、先住民族たち持っているスピリチュアルな価値観へのリスペクトがはらわれていた。自然を近くに感じながら生きる原始部族の価値観に惹かれながらも、近代の物質文明も捨てたもんじゃないと、そう思わせてくれる至高の一本。