ばろん

聖なる証のばろんのレビュー・感想・評価

聖なる証(2022年製作の映画)
4.3
この映画には語り部が存在していた。度々私たちの前に現れては印象的な言葉を残した。

We are nothing without stories.
ー我々は物語なしに存在しない。

人間は物語を生み出さずにはいられない。それは神の存在や宗教の信仰といったことだけではなく、誰もが日常で体験しているはずだ。例えば志望校の入学試験に合格したとき、大切な人を失くしたとき、運命的な出会いをしたとき。本来は独立して存在しているはずのさまざまな事象を結びつけそこに因果を生み出してしまう。点と点を結べば線ができ、その線こそが物語である。これは人間の性であり尊い営みなのだ。

断食を続けていたアナは生命の危機に瀕していた。信仰に支配され食事をすることもできず、ゆっくりと死に向かっていく少女を救うため看護師エリザベスはある提案を持ちかける。それは少女にアナとしての一生を終え、新しい人間として生まれ代わることだった。安らかな眠りに着くアナ。再び目を覚まし名を尋ねると、少女はナンと応えたのである。盲信によって瀕死に追い込まれた少女に別人の物語を紡がせることで彼女の命を救った。

とらわれた籠の中にこもるのも外に出るのも根本は「信じる」という同質の行為なのではないか。行為の両面性が描かれている。
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