ぽんぽこ

あしたの少女のぽんぽこのレビュー・感想・評価

あしたの少女(2022年製作の映画)
4.0
最近観た『アシスタント』が〝静〟だとするとこの映画は〝動〟という印象でした。
国は変わっても同じ人間だから、辛い事が度重なると段々と心が蝕まれるのは同じです。韓国の実話をモチーフにした話しでした。

高校生のソヒは今どきのダンスが好きなごく普通の女子高生です。1人スタジオで鏡を見ながら黙々とダンスの練習をしています。同じ学校に通っていた女友達は学校を中退して、今はユーチューバー みたいな事をしており、2人で化粧品を試したり今でも仲良しです。ある日居酒屋で友達がいつものように動画を上げながら食事していると男性に揶揄われて、正義感が強くて短気なソヒは男性に食ってかかったりします。
高校の担任教師に大手通信会社の下請けのコールセンター運営会社を紹介されて実習生として働き始めます。大手とは名ばかりで実情は顧客の解約を阻止する為に顧客をあの手この手で丸め込むという悪辣な会社です。世間知らずの高校生がどんだけノルマを達成したところで、まだ実習生だからと、屁理屈を言い、先延ばしにして成果給も払おうとしないような胡散臭い会社です。
毎日毎日、客から怒声やセクハラ、上からはノルマノルマで脅されて誰がいつ病んでもおかしくない毎日です。
学校は、本来は学生の事を真っ先に考えないといけないのに、職場の実態がどんなに劣悪でも企業に学校が忖度して学校の経営の為にとにかく数字で大企業に就職できるという就職率の良さばかりアピールします。まだまだ経験も浅い高校生の足元を見て実習を辞めたらソヒの女友達みたいに即、退学になるから辞めたくても辞めれない。学生ばかり雇う理由はそれです。

会社からのプレッシャーに押し潰されたチーム長が遺書を残して自殺してしまう事により、正義感の強いソヒは病んでいくのです。遺書には会社の告発があったのに、会社ぐるみで、警察をも欺き無かった事にしてしまいます。段々と世の中の仕組みが分かってきたソヒは新しいチーム長に不満を爆発させて、出勤停止3日となり、友達とカラオケに行って酔い、遂に自殺未遂にまで追い詰められています。頑張り屋さんのソヒがたった一回、病院の帰りの車の中で両親に辞めてもいいかとポソっとSOSを出したのに、聞こえてないフリをした母親、情けないわ。
会社内のチーム長が自殺した事も異常な事なのに、娘が手首切ったって由々しき問題やろ!親ならインターホンの顔見ただけで今日学校で嫌な事あったとか、テストの出来が悪かったか満足だったかも分かるよ。友達は、まだ社会経験も無いから未熟で、しかも自分も嫌な奴が会社に居たりして、手一杯で余裕が無くて、愚痴くらいは言えても本気で相談なんか出来そうに無い。先生は,始めから恩義せがましくて体裁ばかり取り繕って、とてもじゃないけど,辞めたいなんて言える状況じゃない。誰に弱音吐けるんよ。
小雪が散らつくような日に素足にサンダルで生きてるか死んでるか分からない様な魂が抜けてる形相です。喧嘩したり泣いたり喚いたりできるうちは、まだエネルギーがある時です。
胸が痛いです。               


ダンス仲間だったおばさんの中にただ1人クールな女性が居て、刑事であり、実は人一倍熱く,正義感ある人なのでした。
刑事ユジンが根気強く捜査を進めていくと会社のチーム長が自殺した時の遺書の件も叩いたら埃が出るような卑劣な会社、どんどん馬脚を露わしてるのに、皆目を逸らして責任逃れです。
学校にも出向き、同級生や1つ年上の彼氏に話しを聞き、生徒が苦痛を言えない体制の現実を知るのです。


ラスト、ソヒの携帯が見つかり全て消去された中にたった1本だけ、なんにも悩みなんか無い、幸せだったちょっと前、全力で1人踊っているソヒが居るのでした。
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