Jun潤

⻘いカフタンの仕立て屋のJun潤のレビュー・感想・評価

⻘いカフタンの仕立て屋(2022年製作の映画)
3.8
2023.06.20

予告を見て気になった作品。
伝統技術の継承と夫婦愛をテーマとし、モロッコを舞台にしたドラマ。

ハリムとミナ夫妻が営む小さなカフタンドレスの仕立て屋。
店では最近、見習いのユーセフが働いていた。
ユーセフの仕事ぶりは丁寧で早く、2人とも気に入っていたが、ハリムはユーセフに特別な感情を抱いていた。
ユーセフとミナの間には、複雑な感情が渦巻いている。
しかし、ミナの体を病魔が蝕んでおり、彼女は病床に伏すようになる。

カフタンドレスの仕立て屋を舞台に、それぞれのキャラクターが持つ二面性では足りない側面、言うなれば多面性を描いた群像劇。
ミナには経営者としての面、夫が持つ伝統技術を尊重し価値を見出す面、病による死を恐れながらもハリムのユーセフではなく自分への愛情を喜ぶ面が見れました。
ハリムは、ミナとの夫婦仲も良好で、仕事のパートナーとしても充実しているし、伝統品の技術者としてのこだわりもプライドも持っている、しかしユーセフに対する抑えられない感情や、公衆浴場に行っては情事を重ねることをミナには言えない。
ユーセフもまた、金に執着はせずに、カフタンドレスの仕立てに魅了されたように仕事に没頭していく様と、仕立ての師としてだけでなく1人の男としてハリムに惹かれる姿、経営者としてのミナには強く出れなくても、ハリムから向けられる想いに関しては居ても立っても居られないような姿を見せてくれました。

最近はシンプルなラブストーリー以外も観ていたためか、今作を観てより一層愛とエゴは相反するものではないかと感じました。
他人を愛し、他人に愛されたいと願っていても、自分のことを優先し過ぎてしまえば人との距離は開いていくばかり。
しかし自分を押し殺して他人に尽くしたとしても、他のことへの興味やこだわりは薄れ、一番想っている人以外からの感情には気付かず、自分を見失ってしまう。
今作ではカフタンドレスを愛とエゴの象徴として、エゴがあるから人と人の間に愛情が生まれることを描いていたように見え、相反するだけではないのかもしれないと希望を持たせてくれました。

継承されてきた技術によって作られたドレスが、自分から子へ、そして孫へと、仕立てを繰り返して受け継がれていくように、ミナとハリル、ハリルとユーセフ、そしてユーセフとミナの関係が生んだ様々な形の愛情もまた、次の世代に繋がっていくんだろうなと、悲しいけれど死別では終わらない人生の様相を観せてくれた作品でした。
Jun潤

Jun潤