戒律の厳しいモロッコで、新しい愛の形を投じた作品なんではないかな。あまりに静かに溶け込む話に、この国ではタブーだということを忘れて観てました。
カフタンの仕立屋を営む職人ハリムと死期の近い妻ミナ。そして、新たに雇った若い助手のユーセフ。静寂の中に、3人の心の繊細なつながりや相手を思う気持ちに溢れた美しい愛の物語。
外から聞こえるコーラン、青いカフタンに施される刺しゅう、黙々と縫い上げる職人の手、モロッコの街や人…モチーフの美しさやエキゾチックな雰囲気が、この静かな物語に華を添えている。
ミナ役のルブナ・アザバルさん、どれだけダイエットしたんだろうか。本当に病気なんでは？と思ってしまうぐらい役に入り込んでいて素晴らしかった。
みかんの皮を剥く、髪を洗う、ダンスを踊る。特に大きな出来事は起きないのに、丁寧に紡がれた微細な支流が、最後に海のように深い愛に繋がる。
「愛することを恐れないで」ミナの残した言葉は、夫への深い愛と感謝の印だったし、夫の作ったカフタンもまた妻への愛の印。なんて美しい物語なのだろう。
この監督のタブーへの切り込み方は『モロッコ、彼女たちの朝』でもそうだったけど、優しさと祖国への愛を感じます。ご本人も女優並に美しい。
