かなり悪いオヤジ

M3GAN/ミーガンのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

M3GAN/ミーガン(2023年製作の映画)
3.8
「チャットGPT」を開発したオープンAI社を電撃解任されたCEOが、マイクロソフトによって速攻ヘッドハントされるニュースが示しているように、あのGoogleでさえその地位を奪われかねない現在大注目の最新IT技術、それが対話型生成AIなのである。本スリラーはその対話型生成AIを搭載した人型ロボット=ミーガンが、みなし児ケーディちゃんのお友達になってあげるお話だ。

AIロボットや人形が人間に悪さをしでかすスリラーはハリウッドでこれまでに何本もつくられていて、本作にもそのオマージュシーンが登場する。『チャイルド・プレイ』のチャッキーをはじめ、『ロボコップ』『エイリアン2』『アイ・ロボット』そして『ターミネーター』.....どこかで観たことのあるシーンゆえ目新しさはないのだが、天涯孤独のケーディちゃんを守るためにミーガンが暴力を振るうところが泣かせるのである。

交通事故で両親を同時に失い、AI技術者のジェマ叔母さんにひき取られたケーディ。“ミーガン”開発に夢中になるあまり、ついついケーディのお世話がおろそかになるAI開発者ジェマ。次第にミーガンの隠された凶暴性が乗り移っていくケーディちゃんが、危険を察知しミーガンをケーディちゃんから取り上げようとするジェマ叔母さんをひっぱたくシーンに、耳が痛くなった?シングルマザーの方も多かったのではないだろうか。

「与えておいてなぜ奪おうとするの?」このSFスリラーには、全世界の家庭で問題化しつつある「生んでおいて愛を与えない」親側の育児ネグレクトがしっかりと背景に描かれているのだ。例えどこかで観たようなシーンがあったとしても飽きずに最後まで観ることができるのは、多分そのせいだろう。ブラムハウスが手掛ける映画はこういったアメリカ社会への問い掛けが、ブラックユーモアと惨殺シーンのすき間を何気にしっかりと埋めているのである。

このミーガンをスマホに置き換えれば、現代の病んだ社会の縮図が、“ケーディ”の行動にそのまま反映されている。親の過保護で学校にも通わせてもらえなかったケーディの話し相手は“AI”だけ。外で遊ばないため交感神経が未発達の子供は、ほぼほぼアスペルガーでキレやすく、堪え性に欠けるらしい。チャットGPTの危険性を問う前に、それがどんな影響を子供たちに及ぼすのか。スマホを自分たちの子供には絶対に与えなかったという故スティーブ・ジョブスに是非聞いてみたいものだ。