kkkのk太郎

ブラック・イナフ?!?-アメリカ黒人映画史-のkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

3.2

このレビューはネタバレを含みます

60年代末から70年代末にかけて制作されていた黒人映画=ブラックスプロイテーション映画の歴史を紐解くドキュメンタリー。

製作総指揮は『オーシャンズ』シリーズや『コンテイジョン』の、オスカー監督スティーヴン・ソダーバーグ。
同じく製作総指揮に『セブン』『ゴーン・ガール』の、名匠デヴィッド・フィンチャー。

Netflixオリジナルドキュメンタリー。
ブラック・ライヴズ・マターが叫ばれる昨今、ハリウッドにおける白人至上主義はたびたび問題視されている。
例えば、80年近い歴史を持つ米ショービズ界の権威ゴールデングローブ賞では、87人いる選定委員の中に黒人が1人もいない事が2021年に発覚。
各種メディアによる授賞式放送のボイコット、トム・クルーズを始めとする過去受賞者によるトロフィーの返還など、大きな波紋を起こした。

本作では、自身もアフリカン・アメリカンである映画評論家/映画史家のエルビス・ミッチェルが、黒人が映画の中でどのように描かれ、そして扱われてきたかを解説してくれる。

解説の中心となるのは1968〜1978年の間に制作されていた「ブラックスプロイテーション」と呼ばれるジャンルについて。
1968年に発生したキング牧師の暗殺に影響を受けて誕生したムーヴメントである。

ブラックスプロイテーションとは「黒人(black)+搾取(exploitation)」を意味する造語。
このジャンルは、要するに白人主導で作られた黒人映画。白人プロデューサーが安い金で黒人を雇い、黒人の観客から金を巻き上げる、という搾取の構図を皮肉ったもの。
しかし、反体制的で自由闊達、豪放磊落な主人公が活躍するブラックスプロイテーション映画は、黒人や社会に不満を持つ若者たちに受け入れられた。
これらの映画は大ヒットし、映画界に新たな新風を巻き起こすことになる。

面白いのは、ブラックスプロイテーションの裏で「アメリカン・ニューシネマ」というジャンルも同時に流行していたということ。
反体制的かつ製作費が安いという点では、ブラックスプロイテーションとアメリカン・ニューシネマは共通しているが、前者が黒人が主役かつ陽性な活劇だったのに対して、後者は白人が主役かつ陰性な悲劇であるという点において両者は真っ向から対立している。

そしてこの2つのジャンルの流行が同じ時期に終息していった、というのも興味深いところである。
『ロッキー』(1976年)により提示されたアメリカン・ドリームが陰鬱なアメリカン・ニューシネマにトドメを刺し、その後に発生した白人主人公による活劇の興隆がブラックスプロイテーションをも飲み込んだ。
2つの正反対のムーヴメントが同じ因果律の下に滅び去るというところに、世の無常を感じずにはいられない。

ミッキーマウスや『ロッキー』など、世間的にはグッドカルチャーとして捉えられているものが、黒人視点から見てみると意味合いが変わってくる、という点にはハッとさせられた。
物事を多角的に観測することの重要性を再確認出来るという点においても、本作は価値のある一本だと思う。

サミュエル・L・ジャクソンやローレンス・フィッシュバーン、ウーピー・ゴールドバーグやゼンデイヤ、そして御年95歳のレジェンド、ハリー・ベラフォンテのインタビューも収録。
ハリウッドを上り詰めた彼等だが、それは大きな人種差別や偏見との戦いを経てのことである。
そのことを考えて、目頭が熱くなってしまった…。
ただ、サミュエルやローレンス、ウーピーなどのハリウッドスターがただのインタビューに答える人に終始してしまっていたのはなんだか勿体無い。
彼等の存在が現在の黒人映画にどのような影響を与えたのかを、ある程度体系的に解説してほしかったように思う。

また、これは映画の構成上の問題なのか翻訳の過程で生じた問題なのかはわからないが、一部「え?」と思ってしまう解説もあった。
具体的には『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ウェスト』(『ウエスタン』)の音楽のところ。
「え?アイザック・ヘイズがこの映画の音楽を担当していたの?」と引っかかったので調べてみたら、やっぱりしてなかった。そりゃ『ウエスタン』の音楽はモリコーネだよね。
『ウエスタン』の影響を受けて『Hot Buttered Soul 』の収録曲「Walk On By」を作曲(というかカバーアレンジ)したってことね。なんかこの辺がわかりにくかったな…☹️

長大な映画史を、一つの視点から読み解くドキュメンタリー。そりゃ詳しい人からしてみたら色々と気になる点もあるかも知れないけど、自分のような素人には大変勉強になりました。
たまにはこういう映画を観て、なんとなく賢くなったような気持ちになるのも良いものです(^^)/
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