kkkのk太郎

トゥルーマン・ショーのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

トゥルーマン・ショー(1998年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

自分の人生がTVショーであることを知らないサラリーマンのトゥルーマンが世界の違和感に気付き、次第に実存に目覚めてゆく様を描いたSFコメディ。

脚本は『ガタカ』(監督/脚本)のアンドリュー・ニコル。

平穏な日常を生きる”世界的スター”、トゥルーマン・バーバンクを演じるのは『マスク』『ライアー ライアー』の、名優ジム・キャリー。
『トゥルーマン・ショー』の仕掛け人、クリストフを演じるのは『アポロ13』『ザ・ロック』の、名優エド・ハリス。

第56回 ゴールデングローブ賞において、主演男優賞(ドラマ部門:ジム・キャリー)/助演男優賞(エド・ハリス)/作曲賞を受賞!✨✨
第52回 英国アカデミー賞において、オリジナル脚本賞/監督賞を受賞!✨

『マトリックス』(1999)『アメリカン・ビューティー』(1999)『ファイト・クラブ』(1999)etc…。なぜか世紀末に数多生み出された自己啓発系映画。本作もその中の一本と言える。

太宰治の「猿ヶ島」(1935)に代表される、いわゆる「衆人監視もの」の一つな訳だが、「自分の人生がTVショーだったら」というドリフのもしもシリーズのような設定が非常にユニーク。

「天にまします我らが父よ」なんて祈りの言葉があるが、エド・ハリス演じるクリストフは明らかに神のメタファー。
トゥルーマンは彼の作った”楽園”を自らの意思で捨て去る。神を否定し、自由へと向かい歩き出す彼の姿はさながらニーチェの説いた「超人」のよう。運命論や予定説を徹底的に否定する本作に、勇気づけられる人も多いのではないだろうか。

ニーチェ哲学を絵にしたような映画ではあるが、決して小難しい内容ではない。コメディアンとしてのジム・キャリーの実力が遺憾無く発揮された、お笑い要素も多い作品である。
ただ、一見バカバカしいだけのコメディ要素が同時にとても恐ろしいものに見えてくるから不思議。特に、夫婦喧嘩の最中に妻が突然ココアの宣伝をし始めるところなどは、緊張と緩和、緩和と緊張が同梱する名シーンとなっている。上質なコメディはホラーと表裏一体なのだ。

大いに感心したのはエンディングの切れ味。トゥルーマンが”父”との決別を果たすと、映画は即座に幕を下ろす。エピローグ的なものをくっつけてダラダラ終わりを引き延ばす映画も多い中、ここまで潔いエンディングを描かれるとそれだけでもう感動してしまう。「終わり良ければすべてよし」というのは甘い考えだと思うが、「終わりが良い」のが名作の条件であるということは言えると思う。本作の素晴らしいエンディングを観て、そのことを再認識させられた。

最後の最後、『トゥルーマン・ショー』の視聴者による「おいチャンネル変えてくれ!」と言うセリフで締めるのもまた秀逸。あれだけトゥルーマンの脱走劇を必死になって観ていたのに、番組が終わったらすぐに次の番組に興味を移り変える。今日のスターは明日の一般人。ネットの普及によりエンタメが加速度的に消費されるようになった現代だからこそ、このアイロニカルなセリフがより一層意味を持つものになっているように思う。

気になるのは、本作が『刑事コロンボ』(1968-2003)的な構造、つまり謎の答えを冒頭で明かしてしまうという作りになっていること。別にこれが悪いと言うわけではないのだが、例えばこの世界がTVショーであるというオチを隠しておけば、トゥルーマンが自身を取り巻く異変に次第に気づいてゆく、と言う展開をミステリーとして描けたはずである。本作を下敷きにしていると思われる『ドント・ウォーリー・ダーリン』(2022)が、まさにその点をサスペンス要素にして興味の持続力を高めていたことは記憶に新しい。
ミステリー調にすれば本作がより素晴らしいものになる、とは言わないが、本作をそのように再編集した特別編が観たいと、私なぞは強く思うわけであります。

長々と書いたが、自分の人生を見直すきっかけにもなる傑作中の傑作である。自由を求めるすべての人に鑑賞して欲しい一本♪

さーて、それではみなさまご一緒に!
「会えない時のために…。こんにちは、こんばんは、おやすみ!!😆✨」

…雑誌のピンナップ写真を切り貼りして初恋の人の顔を再現するのってちょっと気持ち悪いよね。谷崎潤一郎の「青塚氏の話」(1926)みたい。
kkkのk太郎

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