◼︎NOTE I 『One More Time With Feeling』の約10分後、Nick Cave & The Bad Seedsがアルバム1枚分の最初の曲を演奏し始めると、悲しみの波が押し寄せ、骨の髄まで深く、息をのむような衝撃が走る。「Jesus Alone」という曲の職人技と美しさは否定できないが、創造性と喪失を描いたこの心を揺さぶる映画全体を通してそうであるように、何か別の、言いようのないものがこの瞬間に展開されている。
『One More Time With Feeling』は、心の痛みについてだけでなく、映画そのものの制作を含む創造的なプロセスについても多くを語っている。ドミニクは、3D映像の再調整と焦点合わせのためのタイムアウトを設け、彼が演奏するケイブの周囲をトラック上のかさばるカメラで映し出す。 スタジオの内外を歩き回っていても、ミキシング・コンソールから静寂に包まれた外を見つめていても、ラスプーチンのような髭を生やしたエリスがケイヴのムードに絶えず愛情を込めて注意を払うように、カメラは残されたつながりに同調している。
このアルバムで彼は、歌詞に対する普段の潔癖さを捨て、より即興的なエネルギーを優先したとケイヴは言う。曲は、アーサーを知るミュージシャンたちの集団的な感情状態を記録している。ケイヴの息子アールがスタジオを訪れると、彼は笑顔で高揚している。 彼は双子を失った少年でもある。 ドミニクの絶妙な優しさに満ちた映画では、亡霊がいたるところに登場し、ケイヴが“With my voice I am calling you(僕の声で君を呼んでいる)”と歌うとき、彼はシンプルなセリフを時代を超えた嘆きに変える。
Sheri Linden. Review: Tragedy hovers over the haunting Nick Cave documentary ‘One More Time With Feeling’. “Los Angeles Times”, 12-01-2016, https://www.latimes.com/entertainment/movies/la-et-mn-one-more-time-review-20161128-story.html を翻訳
◼︎NOTE II 『One More Time With Feeling』は、早すぎる家族の死がもたらす悲しみ、世界を分断する感覚、迷信的思考を、カタルシスたっぷりに、破滅的に誠実に描いている。 アンドリュー・ドミニクによるニック・ケイヴのニュー・アルバム『Skelton Tree』制作のドキュメンタリーは、LSD旅行中の不慮の転落事故で息子を失ったシンガーの影が常に存在する中で展開される。 死は長い間、ケイヴの芸術のテーマであったが、この映画が繊細な感性と偽りのない感情で示すように、この種の死を本当に理解することは誰にもできない。
Carmen Gray. Ten Innovative Documentaries We Watched This Year. “AnOther”, 12-26-2016, https://www.anothermag.com/design-living/9381/ten-of-the-most-innovative-documentaries-weve-seen-in-2016 より抜粋/翻訳
◼︎NOTE III 『ジェシー・ジェームズの暗殺』で知られるアンドリュー・ドミニクが監督を務めたこのドキュメンタリーの序盤で、ニック・ケイヴはこう語っている。 確かにその時のケイヴは少ししゃがれたような声だったが、その比喩的な意味は、破滅と喪失の詩人であるこのひょろっとしたシルクシャツの男には少しも伝わらない。
Andrew Pulver. One More Time With Feeling review – undeniably moving contemplation of loss. “The Guardian”, 09-05-2016, https://www.theguardian.com/film/2016/sep/05/one-more-time-with-feeling-review-film-nick-cave-andrew-dominik-venice を翻訳
◼︎NOTE IV 『One More Time With Feeling』を見始めると、オーストラリアのロッカー、ニック・ケイヴの2人の息子のうちの1人、アーサー・ケイヴの死後に始まった創造的な嵐の渦中に突然落とされる。 この深く感動的なコンサート・ドキュメンタリーは、間接的にではあるが、その喪失に関係している。 私たちは、数十年来のバンド、The Bad Seedsとの最新アルバム『Skelton Tree』のリリース前にケイヴと合流する。 しかし、アンドリュー・ドミニク監督がケイブと彼のバンドをブライトンのレコーディング・スタジオで撮影する頃には(2Dカメラと先進的なモノクロ3Dカメラを使用)、ケイブと彼のバンドの創造的な決断の大部分はなされていたかのように思える。『Skelton Tree』という、特徴的に親密でありながら、個人的な喪失を抽象的にしか扱わない非常にコンセプチュアルなアルバムを、人々はどう受け止めるのだろうか。