垂直落下式サミング

ドラえもん のび太のパラレル西遊記の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.5
のび太とドラえもんが、中国の唐の時代で未来のゲーム機の蓋を開けっ放しにしたせいで、「西遊記」の妖怪たちが現実にとび出してきてしまい、歴史が変えられてしまった。三蔵法師が食われる前に、妖怪たちをゲーム内に回収せよ!
神話や口伝などの物語に描かれた世界は、科学的な根拠に裏付けされた現実だった!という、いつものパターンとは逆。
物語による脚色だったはずの部分が、未来のテクノロジーを介して現実の歴史を侵食してしまう。神通力を使う妖仙や魔物たち。歴史ではなく物語として語られる部分が、本当のことになって史実を摩訶不思議アドベンチャーに拡張してしまうという流れ。
タイムパラドクスによって、世界の構造そのものが壊れてしまったと知ったドラえもんの「他の三人の危険が危ない!」というユーモラスなアホアホボキャブラリーひさしぶりで嬉しかったなぁ。僕にとってのドラえもんはのぶドラなんよ。
声優関連で面白かったのは、最初「脚本・もとひら了」というオープニングクレジットのあと、クラスの演し物の西遊記の劇の脚本を書いた「モトヒラくん」が出てきて、大根役者のジャイアンに頭を抱えてしまうところ。本人が声もあてているのかしら。
タイムマシンにのって中国大陸は唐代から現代に帰ってきたとき、窓の外のなにかがおかしい世界の描写が秀逸。まず空の色怖すぎる。ポスト印象派みてえな妖気、枯れ木とコウモリ、妖怪たちは、ついに歴史をも支配してしまったのだ。劇の内容も変わっていて、三蔵法師はなすすべもなく妖怪に食べられてしまいましたとさというオチに。
藤子・F・不二雄先生の多忙と体調不良が重なって、大長編のなかではじめて先生が原作を書いていない作品とのことだけど、かなり藤子Fらしい作品に仕上がっていたと思う。
子供たちよ。ゲームもいいけど、どうせなら文学の教養をみがきなさいって、昭和オヤジの父性を感じる。中華なサウンドは、ファミコン8Bit電子音アレンジがよく似合う。
嫌だったのは、猪八戒と沙悟浄の役のジャイアンとスネ夫が、金角銀角との戦闘シーンでタケコプター使って飛んでるところ。さすがに孫悟空の筋斗雲みたいな性能の技は持ってないけど、実はコイツらも飛ぶ術くらい使える。なんなら三蔵法師の馬も飛べっからよ!
孫悟空がいちばん強くて、猪八戒や沙悟浄はそれに劣るってのはその通りなんだけど、比較対象の悟空がチート過ぎなだけで、他のお供たちも間違ってもそんなに低く見積もられるようなスペックじゃねーんだぞ。
他のお供がコメディレリーフ過ぎるのは解釈違い。キャラクターの扱いをけっこう厳しい目で見てしまうのは、原作厨の悪い癖。