スコセッシフォールド全開

怪物のスコセッシフォールド全開のネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

家族観、男性性、異性愛が前提の小学校による無意識の加害。社会的な序列、同調圧力による無言の加害。ゴシップ、週刊誌による数の加害。虐待による物理的な加害。イジメ、視線の精神的な加害。いろんな形で存在し、常に脅威に晒されているし晒している。自覚はほぼない。会話、ギャグ、テレビ、標語に散りばめられている。仰るとおり、『映画作品だから、認知できている』という怖さが改めて浮き彫りになる。
気に障るなぁと反応をしたことも、されたことも星の数ほど思い当たる節があるので刺さりまくって辛い。過剰に敏感で、疎い。"何気ない"とか"普通"ってのはそいつの価値観に基づくものだろう。理解した気になるなよ。相手の立場になって考えてみる作業は必要だけど、厳密にはできるわけがない。
事実と真実。保利が湊を追いかけるシーンがまさにそのすれ違いを特段しっかり見せてくる。ただ釈明をしたいだけなのだが、不器用な性格や誤解がかえって大人の怖さを助長、特に目力に顕著に表れている。
最近見た『ライダーズ・オブ・ジャスティス』と通底するテーマ、やるせなさに因果を持たせたがる、矛先を向けたがる人間の性の卑しさ。納得がいくまで徹底的に交戦し、お互い憎悪が増幅していく。勝手に大人たちが暴れて、人間ってそういう生き物なんだよね、との諦めを経ての第三幕。"転生"するわけでなく、自分を他者を認めていき信じていき2人が2人だけで2人だけの世界を切り開いていく。ありのままでいることの祝福。唯一と言っていい、死んでいない目が交えているこの神々しいラストで物語を締めるのがなんとも粋。怪物の怖さの前編と、人間の素晴らしさの後編の対比構造。世界の変化を期待して。
伏線というか、色々なワードや行為が人々の都合の良い解釈で流れてきて変なところに着地をし、余計な飛び火を食らっていく様が、被害者になるし加害者になる、エネルギー保存的な美しさで素晴らしいと思った。
『お前たち落ち着けよ』と言わんばかりの優しいピアノの旋律。坂本龍一さん監修の109プレミアム新宿で見てきた。エンディング『Aqua』が素晴らしすぎる。
母親の第一声『星野くんのせい?』で信頼は地に落ちた。無闇矢鱈、憶測を言ったり断定したりかかりにくるウザったらしさに嫌気が差す。また自分に重ねる。