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怪物のeulogist2001のレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.8
登場人物のそれぞれの視点で世界が描かれる。フィクションに限らず、これが現実だと各自が信じている世界も俯瞰して眺めればこの作品と同じだろう。

異なった価値観やモノの見方、誤解や欺瞞、妥協と反発。愛情と裏切り。記憶の歪曲や美化。結局、そこにある世界はひとつではない。世界を「観る」ひとの数だけ存在している。

見えてるモノはひとつに見えてるだけで、実はパラレルワールドが常にひとの数だけ存在している。

本作は正直、分かりやすさや娯楽性には乏しいだろう。スカッと気分が晴れたり、なるほどと合点がいったり、深い感動を与えるものではない。そして本作の趣旨もそこにはないだろう。

「自分ひとりの見方」で世界を覆い尽くそうとしたり支配しようとする事が、いかに「現実離れ」した事であり、それは不寛容そのものなのだ。共通項を見出したり最大公約数的な見解を探ることもまた、不寛容につながる。手のひらから溢れ落ちていくなにか。掴みきれないなにか。受け入れたくないなにか。それも含めて現実なのだ。

見えていない事わからない事理解しようとしても出来ない事の詰まった世界。だからこそ、「みんなが思うしあわせ」にしがみつくことはない。

ありのままを受け止められず、そうしたモノを排除しようとする「怪物」はあなたの中にもいつも存在しているのだ。豚の脳を間違いなくあなたも抱えている。

追記。
少年たちの同性愛への社会的に形作られた自己嫌悪とそこからの本人たちの受容という面も描かれるがそれはエピソードの中心ではあっても主題ではなかろう。担任とその彼女の関係、校長とその身代わりの亭主。それらの外部的な価値観との距離の取り方と相手との関係の構築も考え合わせると面白い。
外部性(世間体やマスコミ報道、教育機関の価値体系)が内部性に影響していく。それもまた「世界」の多様性や混沌でもある。
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