Yuki

怪物のYukiのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.8
息もつけない2時間。
1分も見逃せない、とても集中して画面に釘付けとなった。
見終わった後立てない感覚というか、凄いもの観たな、と。
誰のレビューも読まないままに、自分が思ったことを書き残しておこうと思う。



まず前半、子持ちの自分としてはどっぷり母である安藤サクラに感情移入。
普通の気のいい、子供に寄り添うけど過保護すぎもしない等身大の母親をしっかりと演じてて、そりゃ学校にこんな対応されたらこうなるよ、これをモンペとか言われたらたまったもんじゃないよ、先生たちいい加減にしろよ、ホリ先生サイコパスなのか?と力が入る。

そこから、ホリ先生視点になって見えていた世界が反転する。
みんなのなかにあるちょっとの先入観(保護者こそモンスター)と、組織のしがらみがちょうど悪く噛み合っていく。

そして子供たち視点で、ピースが埋まる。

誰も悪人じゃないのに、誰もが見方によっては怪物になる、という…

全体的に細部が緻密で、無理矢理なところがなくて、そうか、じゃあそうなるか。ってことの連続だった。

●安藤さくらが、階段から落ちたみなとが教室にいなかったときつぶやいてた「やめてよやめてよやめてよ…」そうだよね、そうなるよ…

●田中裕子の存在感よ。結局この人には謎が残り、そこがまた映画の後味をざらつかせている。
(真実はどうであれ)自分の夫が孫をひいてしまう、という。子供夫婦の気持ちとか、関係とか、このエピソードだけで映画一本撮れそうな重み。

●ホリ先生視点の序盤、登校の時「今日朝何食べてきたの?」「コーンスープにパンをつけて食べたー」「えーおいしそー」というやりとりだけで、えっこの先生サイコパスなんかじゃなさそうだけど…?と観客をぐらつかせるの秀逸。

●少年2人の描き方がやっぱり、好きだった。機微を取りこぼさないというか。
最初、ヨリが5年生でひらがな鏡文字って、すこし事情ある子なのかな、変わり者で浮いてるのかな。と思ったけど
2人のやり取りや表情でヨリがとても賢く大人であることがわかる。

●そんなヨリが、色々わかってるヨリが、おばあちゃんちの近くのあやかちゃんが好きなんだ、と言った後、時間を置いて扉をあけて「ごめん嘘」と言うまでの気持ちを考えると胸がいっぱいになる。

●みなとがテレビを見てた時、ぺえがあえておどけ役として出ていたのにも意図があって。安藤さくらが彼を元気づけようとしてしたモノマネ、そのあとの彼の笑顔。

●安藤サクラの旦那が、別の女との事故で亡くなったという爆弾もぶちこまれ、それをかかえて生きてきた母と息子それぞれの歳月を思うと。
みんな地獄をかかえて生きてんなと。


つくづく思ったのは、どんなに見ようとしたって人のまるごとを理解することなんてできないってこと。それが自分の子供であっても。それを受け入れてある種あきらめて生きていくしかない。


ずっと死の気配が漂っていて、頼む誰も死なないでと息もつけない2時間だった。
忘れないだろう映画体験。
少年ふたりが美しかった。

さぁ、ほかの人のレビューを読みに行こう。
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