健忘症子さん

怪物の健忘症子さんのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

一番好きな脚本家と
期待を裏切らない監督と
唯一無二の作曲家のコラボ。
絶対に大きなスクリーンと音響で堪能すべきだと思っていたが、間違いなかった。

大人には知り得ない子どもの世界。
もう取り戻せないあのキラキラした世界を
痛いほどに魅せてくれる。
緑も光も汗も目の輝きも、
全てが眩しく美しかった。

やっぱり坂元裕二の脚本は秀逸だと思う。
劇中、ところどころで流れるトロンボーンとホルンの歪な音色。意味深に響くそれらも最後には誰による何の叫びだったのか、ちゃんと伏線を回収してくれる。
でも坂元裕二のすごいところは、全てを拾わないところ。必ず、考える余白を与えてくれる。この作品をどう結ぶのか、どう色づけるのかは鑑賞した人次第なのだ。

きっと誰もが強烈な印象を受けたであろう言葉がある。”幸せになれないことがバレるから“と嘘をついた彼に淡々と投げかける田中裕子の台詞だ。
「誰かにしか得られないものは幸せじゃない。そんなのしょうもない、しょうもない。みんなが手に入るものが幸せなんだ。」
要は、幸せなんて求めるのはしょうもないと。自分にしかなし得ない、得られないものにこそ価値があるんだと。無意味な幸せなんかに執着するなと。

この言葉だけは子どもや大人の境目を超えて胸に突き刺さるストレートに人間の核心をついたものだった。

幸せがなんだ。
思うがままに生きろ。
人と同じなんかクソ食らえ。
ニンゲンの中に密む怪物とどう共生すべきか、「生きる」ということを初めて考えるきっかけになった。