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怪物のkomagire23のネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

(完全ネタバレですので鑑賞後にお読み下さい)
※本来の長いレビューを書く時間が最近ないので、短く

この映画の弱点と感銘

結論から言うとこの映画『怪物』は非常に感銘を受ける映画だと思われました。
しかし一方で、特に前半に欠点もはらんだ映画だとも思われました。

この映画は前半、映画『羅生門』のように、シングルマザーの麦野早織(安藤サクラさん)、小学教師の保利道敏(永山瑛太さん)、小学校校長の伏見真木子(田中裕子さん)のそれぞれの視点からほぼ明確に分かれて描かれます。

つまりシングルマザーの麦野早織の視点から描かれていた時は、小学教師の保利道敏や小学校校長の伏見真木子はどう見ても悪人に見えるのですが、小学教師の保利道敏や小学校校長の伏見真木子の視点から描かれると全く違う印象が生まれるという描き方です。

しかしこの描き方は、視点が変われば違う見方になるとの相対的な面白さはありながら、ドラマ性としての面白さは落ちてしまうとの欠点があります。

なぜなら、それぞれの視点で違う見方があるとの描き方をするには、それぞれの登場人物の直接対立を巧妙に避ける必要が出てくるからです。
事実、校長室でのシングルマザーの麦野早織と、小学教師の保利道敏や小学校校長の伏見真木子との直接の対決は、小学校側が謝るばかりで巧妙に避けられています。

実は私達は、人が集まればそこで(それだけではないのですが)対立が大なり小なり発生し、価値の優劣、つまり上下関係が派生します。
そしてこの対立こそがドラマ性だと思われるのです。

この映画『怪物』は、前半で巧妙に直接対決が避けられ、それぞれの(今回重要な)事実性の価値優劣上下関係が発生しないように作られています。
これがこの映画の特に前半のドラマ性の低下につながったと個人的には感じられました。

個人的には、前半は普通にきちんとシングルマザーの麦野早織と小学教師の保利道敏や小学校校長の伏見真木子と直接対立させる脚本構成の方が良かったとは思われました。

そうすれば後半の麦野湊(黒川想矢さん)と星川依里(柊木陽太さん)の2人の美しい世界がさらに際立つ傑作になったのではと思われました。

前半の事実性の優劣上下関係を避ける脚本は、個人的には作品全体としては惜しい描き方になってしまったとは思われました。
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