アキラナウェイ

怪物のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.2
「万引き家族」(18)でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝いた是枝裕和監督最新作。

「誰も知らない」(04)で衝撃を受け、「そして父になる」(13)、「海街diary」(15)と追いかけてきた是枝作品。彼の作品はどれも共通して、"家族"を描く。分裂しかかっていたり、団結していたりする、様々な家族の在り方。そのどれもが時代の映し鏡のようでリアリティに満ちている。いつも考えさせる何かがあり、彼の描く世界にハマってしまう。

息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校の教師、そして無邪気な子供達。最初のそれは、よくある子供同士の喧嘩に見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大きな渦となる。そしてある嵐の朝、子供達は忽然と姿を消してしまう—— 。

安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子ら実力派俳優が揃い、紡ぎ出すのはそれぞれの視点から見えてくる"真実"。

あ、今話題の「ミステリと言う勿れ」の久能整くん(菅田将暉)がドラマで言っていたっけ。「"真実"は1つではありませんよ。"真実"は人の数だけ存在する。でも、"事実"は1つです」って。久能くんの言う通り。

母の視点。
教師の視点。
そして、当事者である子供達の視点。

観客は、それぞれのキャラクターに自身の思いを重ね共感を覚えながらも、徐々にこの物語が孕む大きな違和感に苛まれていく。

「怪物、だーれだ」
子供達が遊びの中で口にする言葉。

我々はこの作品を通じて、怪物が誰なのかを捜し出そうとする。しかし、作品に出てくる誰もが自分が何者かがわかっていない。

安藤サクラも永山瑛太も田中裕子も、皆んな怪物級に演技が上手い。田中裕子の、ホルンを吹いて一筋流す涙には、心奪われた。

しかし、本当の意味で驚いたのは真の主人公である子供達。湊(みなと)くんを演じた黒川想矢くんと、星川くんを演じた柊木陽太くん。是枝監督は子役の演技を引き出す天才。彼らの自然な掛け合いに何度も驚かされた。

以下、ネタバレ含むので行間空けます。











怪物は…星川くんの父親だな。
中村獅童がクソ親父をしっかり演じていた。

クラスの女子が湊くんの事を突如キレるヤバい奴だと思い込み、ネコの死体の噂を流す。他人の事を憶測で捉え、ありもしない噂が流れる。これこそ是枝監督が本作で現代に警鐘を鳴らすテーマの本質。

彼らの笑い声がいつまでも続きますように。そんなエンディングだった。昨日飲み会があって、あれは子供達の死後の世界だと解釈した友人がいた。鑑賞から随分と時間が経ってしまったので、その辺りはもう一度観直したい。

性自認が不確かな少年達。

複数の視点。
揺らぐ真実。
憶測やデマに踊らされる危険性。
そこに朧げながらも、「好きだ」という感情を抱く、年端のいかない少年達の淡い恋心をぶっ込んできたのが凄い。

カンヌ国際映画祭 クィア・パルム賞受賞。耳慣れない賞だと思って調べたら、2010年に創設され、第63回カンヌ国際映画祭から授与されており、LGBTQに関連した映画に与えられるそうな。

いやいや、その賞自体が特大のネタバレなんだが。