耶馬英彦

ミステリと言う勿れの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

ミステリと言う勿れ(2023年製作の映画)
4.0
 テレビドラマのときもそうだったが、久能整くんは、全体主義やパターナリズムの発言に対しては、必ず反論する。理不尽に対して極端に敏感なのだ。反論することで人間関係が壊れたり、ときには自分の身に危険が及ぶこともある。それでも久能くんは反論する。そのブレない生き方は見事と言っていい。
 タイトルの「ミステリと言う勿れ」の「ミステリ」は、本来の「謎」の意味で使われていると思う。出来事には必ず原因があり、経緯がある。「謎だ」と片付けてしまうのは思考停止だ。久能くんは考える人である。同時に観察する人だ。科学者と同じように、推測して、仮説を立てて、検証する。このシリーズのストーリーの面白さはその過程にある。今回もとても見応えがあった。

 久能くんの反論を聞く度に、自分はこれまで、反論すべき場面で反論しなかったことがたくさんあることを思い出す。真実性よりも人間関係や保身を優先してしまったのである。忸怩たる思いだ。
 九能くんは架空の典型的な人格ではあるが、学ぶべきところは大いにある。大人が学べるのだから、子供は尚更だろう。大人には反省を促すから心が痛む部分があるが、子供は素直に学んで、理不尽を許さないまともな人格に育つだろう。とてもいいことだ。

 菅田将暉は当たり役である。九能くんの理屈っぽい話をこの人が喋ると、本音を率直に吐露しているように聞こえて、耳障りがいい。単に嘘を言わないだけではないかと言えば、たしかにその通りなのだが、嘘の中に、テキトーな相槌や上辺だけの同感を含めれば、人間関係に依存して生きている我々にとって、嘘を言わないのは至難の業である。
 つまり、現実の人間が久能くんのようになることは不可能に近いのだ。外見からはとてもそうは見えないが、実は久能整は知的部門におけるスーパーヒーローなのである。彼の活躍に快哉を叫びたくなるのはそういう訳だと思う。稀有のキャラクターである。
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