富樫鉄火

ナショナル・シアター・ライブ 2023 「るつぼ」の富樫鉄火のレビュー・感想・評価

3.0
#69
こういう芝居を、徹底的に簡略された日本語字幕で観ることの難しさを痛感した。
本作は1950年代の「赤狩り」に対する隠喩芝居として知られるが、ミラー自身は、そう思われることを嫌がっており、「もっと深いところを目指したので、17世紀の言葉や言い回しを使った」と述べている。
その味わいは、ハヤカワの文庫(倉橋健訳)で読むと、とてもよく伝わるのだが、今回のようなダイジェスト字幕では皆無。
そのうえ、演出が、現代美術風だったり、やたら最新音響にこだわったり(幕間のインタビュー映像も、そればかりだった)、上演台本も、かなりの部分をカットしたりしているので、どこか作品の本質がずれてしまい、ミラー本人が狙った点がさらに薄まってしまった。

だが、さすがに達者な役者が演じているだけあり、3幕4幕は、すごい迫力だった。
日本では、民藝の得意演目だったが、初演で、少女アビーを先日93歳で亡くなった奈良岡朋子さんが演じたかと思うと、感慨深いものがある。
富樫鉄火

富樫鉄火