そーた

霧の中のハリネズミ/霧につつまれたハリネズミのそーたのレビュー・感想・評価

4.5
長い間、忘れていた感覚

昔、友達と二人でノープランの旅に出て、
行き着いた新潟県、越後湯沢で寒さと戦いながら野宿をしたことがあります。

コンビニでもらった段ボールにくるまりながら朝まで一睡もできずに、
へとへとで駆け込んだ始発列車。

疲れと眠気のあまり意識が朦朧となるなかでふと車窓に目をやると、
そこに広がっていたのは朝日に煌めく霧に包まれた田園風景。

今でもあの幻想的な光景が、
現実だったのか夢だったのか本当に分かりません。

夢現の中で、電車がごとりごとりと進んでいくあの感覚。

その時の不思議な体感を不意に呼び覚ましてくれたのは、
可愛らしいハリネズミのヨージックが繰り広げる身近な世界の冒険譚。

一緒に星を数えようと手土産のお菓子をぶら下げ友達の小グマくんを訪ねる道すがら、いざ勇気を出して霧の中へ。

真っ黒よりも真っ白に刺激されたイマジネーションがもたらす幻想と見紛う実在感。

白馬にカタツムリに、木の葉に、コウモリ、そして大木に。

すべて普段確かに存在しているものもの。

立ち込める霧という舞台装置によってその輪郭がぼやかされ、
逆説的に増した存在感に神秘性が宿る。

小さい頃に森の奥や海の底、宇宙の彼方を思い描いて、
何か未知なるものがそこにはあるんだろうなって想像してみたときに抱いた感覚に近い気がする。

現実に生きる僕たち大人にはとっくに忘れてしまっている感覚なんじゃないのかな。

ヨージックの愛らしい仕草の一つ一つに込められた探究心とそれを見守る暖かな存在との結び付きが、
身近な世界にでさえ潜む不可思議に毅然と立ち向かう勇気を与える。

子供はもちろん、むしろ大人にこそ、
見てほしい。

そうすれば、明日から世界が少し変わって見えるはず。

いまこうしている間にも、
あの田園風景がどこかに広がっているのかもしれない。

ヨージックが最後に思ったのもそんなことだったりする。

そういえば、
一緒に旅したあいつとしばらく会っていないな。

元気にしてるだろうか。
そーた

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