Yoshishun

きみの色のYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

きみの色(2024年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

“変えられないものと変えられるもの”

今夏、いや今年最も期待していたと言っても過言ではない、山田尚子監督最新作。生まれつき人の色が見える少女トツ子は、高校を中退したきみ、医者の道を選びつつ大好きな音楽の夢も捨て切れないルイと出会い、バンド活動を通じて互いの悩みを打ち明け解消していく姿を描く。京都アニメーションで培った「青春×音楽」というジャンルにおいては最早敵なしとも言えるであろう山田監督自ら1人で絵コンテを手掛けた程に気合の入れようが違う渾身の1作であろう。

しかし、本作は事前情報無しに見るにはハードルが高過ぎるともいえる。というのも、本作は作品のゴールというものが見えにくく、単にバンドものとして物語が帰結するわけでもなければ、このような学園ものにありがちな、それも山田監督が得意とするような卒業、恋というテーマも殆ど語られない。実際に本作の試写会での感想においても、「最後まで何を描きたかったのかわからない」という声が挙がっていた。

『映画 けいおん!』や『たまこラブストーリー』で描かれた青春は、終わり(卒業、進学)の近付く過程の中で一瞬一瞬の出来事を思い出としてじっくり昇華していき、音楽はあくまで青春の一部として描き切る形であったが、本作はトツ子等が抱える悩みに真摯に向き合いそれを反省文、歌にのせて昇華していき、まさに音楽を主体として青春そのものを描き切る形を取っている。同じ音楽青春ものでありながらも、青春の描き方に違いが見られる。だからこそ、終盤の聖バレンタイン祭でのライブで3人の葛藤や苦悩が一気に昇華され、最大級のカタルシスをもたらすのである。劇場ならではのサウンドと3人の色が重なり合う、まさに虹色の熱気に包まれたライブシーンにこそ本作の描きたかった全てが集約され、そこが山田監督の集大成と言われる所以でもある。

また、色がテーマである作品だけに、作中の3人やキャラクター達の背景がちゃんと色付けされている点も評価できる。きみは青、ルイは緑、そしてトツ子は最後の最後に赤みがかる。それも原色ではなく、淡みがかったパステルカラーを基調とし、本作の悪人の存在しない優しい世界観とマッチしている。ライブシーンやバンドとして劇的な瞬間は常に様々な色が重なり合い、虹色に彩られた構成に画面の拘りを強く感じられて良い。

さて、山田監督の1つの到達点であると同時に、単に構成としてやや難を感じる部分もある。自分の色が見えないトツ子、中退した事実を育ての親である祖母に言えないきみ、音楽の道を諦めきれないルイ。3人の悩みを打ち明けていく過程はやや雑になっている部分があり、バンドを組む瞬間や初めての楽曲に興奮する瞬間、一瞬一瞬がかけがえのないもの思い出となるはずなのに妙にカット割りが早く、余韻に浸る隙を与えない。もっと描くべきシーンがあっさりと、逆に長く描かなくても良いシーンが長めにと、シーン同士のバランスが絶妙に噛み合っていない瞬間が多く感じた。

思春期の子どもは誰かしら悩みと秘密を抱えているものだ。しかし、大人からしてみればそれはほんの些細なものでしかなく、1人で抱えることなく、誰かと共有することで和らぐこともある。まさに劇中のルイの台詞そのもので、誰かと自分の好きなものと秘密を共有できる素晴らしさを訴えかける。悩みを持つことは成長の証であり、アイデンティティーや生まれ持った才能は受け入れ、変化させられるものは変化できるようにする。自分らしく生きにくい若者にこそ響く、山田監督らしさ全開の青春映画だった。
Yoshishun

Yoshishun