ブラックユーモアホフマン

きみの色のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

きみの色(2024年製作の映画)
3.7
初・山田尚子。

ずっと気になってること。
映画で、特に日本映画で、ある登場人物が、別の登場人物の名前を呼んで「なに?」と反応される、もしくは去り際に声をかけて振り返る、そして「ううんやっぱりなんでもない」と返す、というくだり。もう何百回も見てきたんですけど、もうやめませんか……だって、現実にそんな場面あります?映画やドラマでしか見ませんよね?何を根拠にそのセリフ、そのシーンを書いてるんだろう……とよく分からなくなるんですよね。そのやりとりが出てきた時点でなんか、丁寧さに欠ける映画だなと思ってしまいます。

ぼんやりとしてはいる。
それは彼女たちが抱えている葛藤がどんなものなのか、それをどう乗り越えたのか、が具体的に示されないからだろうと思う。
しかし登場人物に葛藤を作り乗り越えさせるという従来型の劇の作り方から意図的に離れようとした映画なのかもしれない、と考えると闇雲につまらないと断じてしまうのも、それこそつまらない気がしている。
3人は、優しい家族や友人にも恵まれ、何かしらで葛藤はしているのか知らないけれど、本来は悩む必要もなさそうなほど元から幸せそうなので、冷たく言ってしまえば、まあ好きにしたらいいんじゃないかと思ってしまう。
それをただ見るだけでも、幸せをお裾分けしてもらってるというか、全然いいんですけどね。山下敦弘監督の『リンダ リンダ リンダ』を特に思い出した。

しかし、きみちゃんはなぜ学校をやめたのか(てか学校って保護者に知られずに勝手にやめられるものなのか?)、あの本屋は誰のどんな店でなぜいつからきみちゃんはあそこで働いているのか。とつこにはなぜきみちゃんが特別綺麗な色に見えたのか、なぜ自分の色は見えず、最後に見えたのは何が変化したからなのか、とか色々気になるところがあり……葛藤を描かないなら描かないでいいのだけど、葛藤になりそうな要素はチラチラ出しておきながら、なんとなーくそんな感じでーって雰囲気だけに頼って流れていってしまうようなところがモヤモヤする脚本ではあった。

色っていう視覚的な演出と、バンドっていう聴覚的な演出が、噛み合ってるのかどうかもよく分からない。作曲なんかしたことなかった二人なのに、いとも簡単に曲を作れてしまい、簡単に演奏もできるようになってしまい、簡単にコンサートも上手くいってしまい、まあ都合がいいなと思う。現実もそうだったらいいのにね、と思う。

ただ、流れてる時間は素敵だなと思うところはあった。なので、嫌いではない。しかし、ものすごく感動するってわけでもない。優しい世界で良かったねーって感じ。その幸福感に浸ってニコニコしたらいいんだと思う。

髙石さんの声、素敵でした。
Born Slippyは意外な選曲だった。

【一番好きなシーン】
雪の中の合宿。朝方、ロウソクが勝手に消える感じとか。