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きみの色のtakのレビュー・感想・評価

きみの色(2024年製作の映画)
3.8
監督山田尚子×脚本吉田玲子のアニメーションは「けいおん!」以来お気に入りだ。そのコンビの新作は、青春と音楽の物語。

人がそれぞれの色で見えるトツ子。ミッション系の女子校に通う彼女は、ある日の体育の授業中、きみちゃんの放つ青い色に魅せられる。ところがきみちゃんは予告もなしに退学。商店街近くの古書店で働くきみちゃんに声をかけたトツ子は、その店に来ていたメガネ男子のルイとともに勢いでバンドを結成することに。練習場所は離島にある教会跡地。3人はそれぞれが抱える悩みや秘密を共有するようになる。

全体的なほんわかとしたムードと優しい世界の上映時間100分は、慌ただしい日常をしばし忘れさせてくれる。結果として周囲の大人に対して嘘や隠し事をしてしまう3人だが、自作曲を持ち寄ることでだんだんと自分の心に素直になっていく。頑なだった心を解きほぐしてくれたのは音楽の力。

この監督脚本コンビである秀作「聲の形」や「リズと青い鳥」の、感情が心の器から溢れ出すような強い感情表現とは違う。それぞれの不器用さからうまく言葉にできないながらも、ジワジワと高まっていく3人の気持ちが観ていて心地よい。でもそれは周囲の大人たちの気持ちを描くことをスパッと切り捨てたからに他ならない。きみちゃんのお婆ちゃんが彼女に期待する気持ちは裏切られたし、ルイの母親にも言い分はあっただろう。クライマックスの学園祭ライブで、そんな不器用な子供たちを認めるひと言も出てこない。

でも、そこを期待した僕は、大人の目線でこの映画をちょっと冷ややかに観ていたのだろう。描かれるべきは世代間の関係修復ではなくて、3人がそれぞれの個性や自分自身を肯定する気持ちになっていく様子。それこそが"きみの色"なんだ。だから僕ら世代には、この映画はちょっと気恥ずかしくて、こそばゆい感覚がある。

ほんっと青いなお前ら。
でもそんな気持ちあったよ。
そんな感じ。

変則スリーピースバンド。ルイはプログラミングとキーボード。トツ子が弾くキーボードは、RolandのGO:PIANO88とはナイス👍。両手指一本で弾く場面がダサいめいた感想を見かけるけど、あれはシンセベースを弾いてる場面だから、アリだと思います。きみちゃんのギターがリッケンバッカーって、絵が映えるいいセレクト👍。さらにルイがソロ楽器としてテルミンを操るのが、電子楽器好きの僕には嬉しい誤算🤩。やるやん!しかもトツ子がバレエで踊りたかったという楽曲ジゼルをテルミンで演奏する場面は感激してしまった。

大昔に聴いていたラジオ番組で、個性を出せ、自分を出すことをためらうな、とリスナーを励ます言葉にをかけてくれたミュージシャンがいる。彼は言った。
「自分のプラカードは、自分の色で染めなきゃ!」
それからウン十年経ったけど、僕はいったいどんな色なんだろう。"青いなお前ら"と色で若い子を括ってしまった自分。もしかして色をなくしているのではないよな、と自分に問いかけた。
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