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コカイン・ベアのnetfilmsのレビュー・感想・評価

コカイン・ベア(2023年製作の映画)
3.8
 予告編で観ていたクマがコカインでラリってどうにかなる辺りだけがギャグ的に繰り出されるのかと思えば、「今作は80年代の実話を脚色したものです」の丁寧なテロップ通りに意外にも堅実な作りで、コカインでやられたクマ以外の人物の設定や描写が随分と丁寧でびっくりした。というかこれだけ周辺の登場人物の背景描写をバカ正直にじっくり丁寧にやりながらも、実際に登場する彼らは躊躇なくヤラレテしまうわけで、これではホラー映画の費用対効果が疑われても仕方ない。コメディに比重を置くかに見えて、監督のエリザベス・バンクスがやりたかったのは本物の動物パニック映画で、撒き餌に乗せられて3方向から登場人物たちがゴ⚪︎ブリホイホイのように吸い寄せられて大挙集まる様は見事という他なく、多少の人物描写の鈍臭さもあれど、アクション映画としてもホラー映画としても及第点が挙げられる。哺乳類代表であるクマの知能に関しても、こちらの裏を掻くような知能があり、流石にピラミッドの頂点に君臨するだけの気概は見せる。自然界の神が地上の悪たちに天罰を下すような寸法だ。

 ただ3方向からの人物描写はやり過ぎと言えばやり過ぎで、公園管理者のおばさんのエピソードは末路だけを描けばよかった。あの定年間際の黒人刑事の冒頭のエピソードも果たして必要だったのかさっぱりわからない。かなり早い段階で木の上に逃げた場合にも恐ろしい事態が起きることを明示しつつ、ラリったクマによる発作的な捕食はいつ何時起こっても不思議ではない。理路整然と言えば言葉は正しくないかもしれないが、いつどんな時に捕食衝動や殺人衝動が現れてもおかしくないのだから。然しながら今作が凡庸なのは、熊とは関係無いところで様々な殺しが行われ、熊とはあまり関係ないところでホラー風な演出が始まる点にある。原作は事実を題材にしているらしいが、最初から出落ち級の30分程度の話でしかなく、そこにプロットを足しながら登場人物を増やしながら96分に纏めるのだが、いかんせん長い。母親サリ(ケリー・ラッセル)の娘ディディ(ブルックリン・プリンス)救出へのエピソードが本線ならば、何も3方向ではなく普通に一線に収めるべきではないか。トイレでギャングに襲い掛かって来た3人組のエピソードが最高で、85年という時代設定もあるだろうが、何だか出て来る登場人物たちがみんなボンクラなのだ。しかもこれが最期の作品になるとは夢にも思わなかっただろうレイ・リオッタの哀愁漂う狂人ぶりが泣ける。
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