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チャレンジャーズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

チャレンジャーズ(2023年製作の映画)
4.3
 冒頭、私はビスタサイズの横長のワイド画面に大写しとなった観衆の中に主人公の姿を探してしまう。カメラの視点は複雑に切り替わるがいずれもロング・ショットで、一向に探せずイライラしていると、ラリーが始まった時点で左右のコートにボールが飛ぶ瞬間に首を左右に振らない人間が一人だけいて、それが今作の主人公であるタシ・ダンカン(ゼンデイヤ)だとわかるのだ。映画はこの2019年のニューロシェルにおけるチャレンジャー大会決勝のアート(マイク・フェイスト)とズワイグ(ジョシュ・オコナ―)との決勝戦の様子を131分間の中に主に描くのだが、そこに13年前や数日前の過去が何度も登場し、見事なレイヤーを作り出す。学生時代、ダブルスの名手として頭角を現したアートとズワイグの2人はシングルスで突如、登場した女性プレイヤーであるタシ・ダンカンのプレイの全てに魅了される。その時点ではアートとズワイグの2人は会場の観客でしかないわけだが、冒頭から始まる2019年の決勝戦も同じことが言えるのである。何が言いたいかといえば、3人の三角関係は一向にコートで始まる予定はなく、全ての目論みはコート外で繰り広げられることに驚く。

 今作は何もテニスというスポーツの魅力を語ろうとするようなありきたりな映画ではない。確かにテニスの映画としても優れたショットは幾つも見つけられるが、それ自体がルカ・グァダニーノの緻密で繊細な企みにも思えてならないのは、テニスというゲームにおいては常に、三角関係のどちらか一方のジェンダーは常に観客席(部外者)の視点からしかトライアングルの関係性をコントロール出来ない。キー・ビジュアルとなるゼンデイヤが付けたサングラスの左右のレンズに、長年の泥沼化するような三角関係を引きずるアートとズワイグがそれぞれ左目、右目に映る映像というのは、本来ならば物理的に有り得ない。然しながら両コートを見れば有り得ないことが彼女の視線の中では起こり、彼女の眼差しの中でゲームの結果とは違う差配は生じる。テニスは紳士のスポーツだから、差別的な言葉やラケットへの八つ当たりそのものは厳格に減点対象となる。つまりコートの中の厳格さは彼らのセクシュアリティを抑制し、狂気にも似た球の打ち合いそのものが三角関係の只ならぬ危うさを衆目に晒す。トリュフォーの『突然炎のごとく 』から60年が経過し、所有の概念はジェンダー的に位相を変え、今作では正にタシ・ダンカンこそがゲームの支配者なのだが、コートの中では完璧なるゲームの支配者にはなれない。それが端的にわかるクライマックス場面の壮絶さは2024年屈指の名場面である。
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