矢野竜子

658km、陽子の旅の矢野竜子のレビュー・感想・評価

658km、陽子の旅(2023年製作の映画)
3.8
熊切和嘉監督最新作。
前作の「#マンホール」が
主人公がひたすら追い詰められる内容だったが
本作もとことん主人公が追い詰められる。
ただ前作がマンホールの中のみであったのに対して
本作はタイトルが示すとおりに逆に移動しまくる。
となるとやはり映画としては
圧倒的にこちらの方が面白くなるのは必然だろうか。
他人とは何かを北上するにつれて学ぶうちに
生きるとは何かをも学んでいく主人公に胸打たれる。
冒頭のPC上でのやり取りから
ディスコミニュケーションが
主題になっていることがわかるが、
それは以降の展開でも繰り返され、
全然話さない主人公と話してばかりの他人
というシチュエーションが頻出する。
一方で幻影(幽霊)と化した父親には
自ら話してばかりいる主人公。
誰かが喋る時、誰かはそれをただ聞いているだけ。
本作では普通の会話のやりとりが
行われることがあまりないのが面白い。
ただ黙っていることと聞いていないは同義ではない。
聞いているけど黙っている。黙っているけど聞いている。
そして本作で他人が話すのはほとんど過去のことである。
みな自分たちのそれぞれの過去と対峙し
話すことで今を生きている。
あとオダギリジョー演じる幻影の父親のキャップの色から
ケイコ目を澄ませての三浦友和を想起し
さらにそこからトニースコットを想起するなど。