DJあおやま

しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜のDJあおやまのレビュー・感想・評価

3.5
シリーズ初の3DCG。ぬるぬる動くしんちゃん、その愛らしい丸っこさ、風間くんの髪型の立体感、いつもの春日部の街並みのディテール、カンタムのメカメカしさ、そのすべてが新鮮で観ていて楽しかった。ただ、中盤あたりで廃テーマパークに舞台を移してそこから動くことはなく、作品のスケールがイマイチ広がらず寂しい印象をおぼえた。せっかくの3DCGなのだからファンタジー色強めの作品や、かすかべ防衛隊のド派手な活躍も観てみたかった。
ストーリーの元となっているのは、原作26巻収録『しんのすけ★ひまわりのエスパー兄妹』。本作を観た後、何年ぶりに読み返したけど、普通に今読んでも面白くて笑っちゃった。深谷ネギや池袋教授は原作とそのまんまでびっくり。意外と覚えていないものだな…。
映画としては概ね面白かったけど、現代社会の問題を色濃く反映していて、しんちゃんが扱うテーマとしては重すぎるように感じた。その上、ラストでは明確な希望を見せるでもなく、大人たちが子供たちにただ「がんばれ!」と言うばかり。クレヨンしんちゃんを観て、この現代社会を憂う気持ちになってしまったのは残念。
非理谷のキャラクターが、社会に爪弾きにされ、家族や恋人もおらず、唯一の生き甲斐だったアイドルに裏切られ、社会に恨みを持つ人間という、まさに“無敵の人”。あまりにリアルな設定で笑えないよ…。そんな非理谷にひろしが「誰かを幸せにするためにがんばれ」というような言葉を投げかける。多様性とうるさい世の中で、いろいろな幸せの形があると説くべきところだが、恋人を作って家族を築くことだけが正解のようなセリフにちょっと違和感。ひろしといえば、35歳にして、マイホーム持ち、子供2人に飼い犬、妻は専業主婦というスペックで、理想の父親像として崇められて久しいが、そんな“勝ち組”なひろしが投げかける言葉としてはあまりに無責任。追い打ちをかけるように、記憶のない非理谷に対して、マイカーの弁償の話を持ち出したのも残念。
ただ、劇中であるとおり、確かに大人たちは自分たちが生きるのに精一杯だけど、これから10年後も20年後も、子供たちがしんちゃんを観て笑える未来になるようにがんばらないといけないな…。
ゲスト声優の松坂桃李が上手いのは当然として、空気階段の2人が上手すぎてびっくりした。普通お笑い芸人がゲスト声優を務める際は、端役やネタキャラ、本人役だったりするけど、がっつりメインキャラで違和感がまるでなかった。エンドロールで空気階段の2人の名前と配役を改めて確認して、「上手すぎんだろ…」と唸ってしまった。
令和の時代に深キョンの『キミノヒトミニコイシテル』(バリバリの小西康陽サウンド最高)という選曲には痺れた。
ところで、今回はなぜしんちゃんの服装が、アニメの上赤下黄ではなくて、原作と同じ上黄下紫だったのだろう。
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