柏エシディシ

君たちはどう生きるかの柏エシディシのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

初日初回に。終演後劇場からは拍手も。
大仰なタイトルと一切の宣伝や事前情報がない興行に、こちらも身構えてしまうが、どーせ「ポニョ」の時の様に肩透かしを喰うような軽快な作品が来るんじゃないかな?と密かに予想していた。
しかし、思っていた以上に特盛宮崎駿総集編でしたね。

もう意図的と言って良い過去作とリンクする人物配置や設定(根底にある戦争体験。田舎への移住。母の不在。守護者の老婆。擬人化する異形の動物たち。空を目指す不思議な小精霊。気風の良い姉さん。火の守り人。美味そうなフード描写)にファンならば喜ぶところでしょうが、自分としてはインコが出てくる辺りから何だか宮崎駿ダイジェストを見せられている気がして少し退屈し始めてしまった。
「お爺ちゃん、またその話?」がポール・シュレイダーなら良くて、宮崎駿は駄目なのかどうか議論はひとまず置いておいて、意外なまでの旺盛なサービス精神に鼻白むと共に、かなり意図的に"締め"にかかっている性急ささえ感じて、さみしい気持ちになってしまったのは事実。
さみしいといえば、タイトルを含めて終盤の"継承"を強く思わせる展開は、我々観客も慎重に観なければいけないところ。
新海誠(マコト!)、細田守、庵野秀明ら"後継者"や実息、スタジオジブリのスタッフ達への私信やエールにも捉えられる。
しかし、その世界を作る(描く)ことの想いというものの取り留めの無さというか、あまりにも朧げな託し方、思った以上に「君たちはどう生きるか?(勝手にしなさい)」と言われた気になってしまった。
巨匠の作品を前にして恐縮ですが、それよりも「君も一緒に来ない?」「自分の物語は自分で書く」と宣言したアクロスザスパイダーバースの方が強く心に今は響いてくる。(もちろん作り手も作品も立ち位置も違うことは理解した上で。今自分に必要な物語はそちらだった、ということでしょう)

思った以上に"総集編"だった本作を観た後に思ったのは、実質的な"遺作"の様な「風立ちぬ」と合わせて成就され、少なくとも興行的には"ポスト"宮崎駿の人材も現れてきた現在、これからは、監督には5.10分の小品でもイイので、監督自身が本当に描きたいもの、描いて楽しいものを作り続けて欲しいな、ということ。
興行や、我々観客のことなんか忘れて。
そして気が向いたら、時々それを見せてくれる機会があればいいな、くらいな。
もうそれぐらい宮崎駿監督は私たちには充分に世界を見せてくれたのだから。
柏エシディシ

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