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君たちはどう生きるかのPDfEのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

宮崎駿の新作が観られるなんてまるでパラレルワールドに迷い込んだようだったけど、その上今までで一番自分ものと思えるジブリだった。
映画の世界観のつくりこみという面では過去作品の方が断然上とは思ってしまうけど、監督自身の想像の暴走をそのまま皿にのせてサーブされている感じ。それ故に極私的な空想世界になっているのが逆に子供の頃に自分が好き放題に思い描いたファンタジーに接続している気がしてものすごく刺さってしまった。
子供の頃に知っている大人というのは身近にいる人たちだけなので、近親者が世界の登場人物になるというのがすごく感覚としてわかる。ラストで「友だち」である青鷺が(そう、空想世界はかつて友だちだった)、「みんなすぐにこの世界のことを忘れてしまう」と言った時、一瞬で「みんな」が登場人物だけでなく自分含む大人になってしまった鑑賞者のことを示していると分かってしまってとてもとても哀しかった。でもその世界から持ち帰った小さな石によって空想の世界を持ち続けることができることも示されていて救われた気持ちにもなった。

映像表現としては、出だしの眞人が階段を駆け上がるシーンからすでにジブリ全開だったけど、火の中を彷徨う影のように溶けた群衆の描写は今まで見たことない表現で、ここにきてまだ新しい表現を試行するバイタリティよ…と凄みを感じた。
背景も宮沢賢治がそのまま具現化したかのようでとても一番好み。
一方で、メインキャラクターの容姿が綺麗に描かれるのに対して脇役たち(今回は老婆)が醜く描かれるのが昔からあまり好きじゃないなと改めて思った。これはジブリに限らずだけど。
わらわらがあからさまにかわいさを狙ったデザインに見えたのが気になったけど、あまりにも生き生きと描写されていて全く嫌味が無かったのも面白かった。わらわらが天に飛んでいくシーンは人間になってからの苦しみを勝手に想像してしまって涙が出そうになった。

大おじから世界を受け継ぐ選択を迫られた時の「現実に帰れば暴力に晒されることになる」(うろ覚え)の台詞は本当にそうだけど、大おじがつくった世界だって、ペリカンをはじめ弱者が暴力を受けるシステムを前提として成り立っている。大おじは宮崎駿自身の投影だと見ることもできると思うが、そう考えると世界の崩壊は暴力装置としてのシステムの破壊・再構築を示すとともに宮崎駿による次世代へのバトンの受け渡しも示しているように思える。
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